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子供の頃の誓い

「星ってなぁに?」


 ある時、サクヤは母親にそう尋ねた。

 サクヤの言う『星』とは、自分たち人間が住む大きな星――地球テラのことではなく、御伽話に登場する夜空に輝く『星』のことだった。

 母親はその意図を理解していたが、すぐに答えることができなかった。


 『星』とは何か。それはサクヤも母親も知識として知っている。

 夜空に浮かび、雄大で美しく、きらきらと輝くもの。


 しかし、二人とも実際に『星』を見たことはなかった。

 確かに空には、朝から夕方までは太陽が昇り、夜には月が浮かぶ。

 だが、それらは『星』ではなく、妹神が自身の体を分けて生み出した『星のようなもの』。

 それが、サクヤたち人間の共通認識だった。


 実際、夜空には月以外に何も輝いておらず、そこにあるのはただの暗闇。

 新月の夜ともなれば、世界は完全な闇に包まれる。

 だからこそ、物語や絵本、口伝によって『星』の存在を知ってはいても、誰も実際に見たことはないのが現実だった。


 それがサクヤの好奇心を刺激した。

 『星』とは何か。どんな形をしていて、どんなふうに見えるのか。


 芸術家たちは想像を頼りに『星』を描いたり彫刻を作ったりしていた。

 ある者は、太陽を頭に持ち、人のような姿をしたものを。

 ある者は、棘だらけで細長い何かを。

 ある者は、複数の獣の特徴が混ざり合った怪物のようなものを。

 表現はさまざまだったが、どれも漠然としていて、決定的な答えにはなり得なかった。

 実物を見たわけではないのだから、当然のことだった。


 だが、それならば余計に知りたくなるのがサクヤの性分だ。

 物心ついた頃から御伽話に登場する『星』を知っていたのに、その正体を知らないことに、彼女はもどかしさを感じていた。

 まだ七歳だったサクヤにとって、それはなおさらだった。

 調べたいのに幼い体では思うように動けず、何度も歯がゆい思いをした。

 彼女にできることは、両親や、たまに家を訪れる親戚に『星』について尋ねることくらいだった。

 国の法と掟のせいで自分で外に出て探しに行く事も出来なかった。


 だから、サクヤは幼い日に誓った。

 ――大きくなったら世界を旅して『星』の正体を突き止める。

 世界のどこかに散らばる『妹神の記憶』を集め、『星々の種子』を花開かせる。


 そして、その誓いから十三年後。

 知識と肉体を鍛え、立派な女性へと成長したサクヤは二十歳を迎えた人間が皆通過する成人の儀を終え、ついに念願の旅へ出ることになった。


 両親や親戚、友人は猛反対した。

 「そんな旅は、命を捨てるようなものだ」と。

 だが、何を言われようとも、サクヤの決意が揺らぐことはなかった。

 ようやく、子どもの頃の誓いを果たす時が来たのだから。


 サクヤの国では、二十歳の成人の儀を終えるまでは国外に出ることが禁じられていた。

 それを破れば、一生国を出られないという掟もあった。

 だからサクヤは待った。

 成人の儀を迎える日まで。

 知識を蓄え、体を鍛えながら。


 そして今、ようやくその枷は解かれた。

 もう、サクヤを縛るものは何もない。


 故郷を離れることに、寂しさがないわけではない。

 両親や親戚、友人と会えなくなるのも、寂しくないわけではない。

 本音を言えば、寂しい。

 だが、だからといって諦めるつもりはない。

 生きていれば、また会える。

 だからサクヤは、お世話になった人たちに笑顔で一言告げた。



「行ってきます!」



 こうしてサクヤの『星』を求める旅は始まったのだった。


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