御伽話
これは、何千年、何万年という気の遠くなるほど昔のお話。
遥か宇宙の彼方で、二人の姉妹が大きな喧嘩をしました。
きっかけは、すぐに忘れてしまうほど些細なもの。
けれど、一度始まった争いは収まることを知らず、時間とともに激しさを増していきました。
二人の怒りは近くにあるものを次々と破壊し、ついには宇宙に輝く星々さえも例外ではなくなりました。
二人が怒り、叫ぶたびに、一つ、また一つと星が砕け散り、ついには宇宙から星という星が消えてなくなってしまいました。
宇宙から星明かりが消え、ようやく異変に気づいた時には、すでに手遅れでした。
あれほど雄大で美しかった宇宙は、今やただの真っ暗闇。
そこにあるのは、二人が壊した星の残骸だけ。
その光景を前にして、二人はようやく悟りました。
自分たちが、どれほど愚かで取り返しのつかない過ちを犯してしまったのかを。
二人の顔は青ざめ、最早喧嘩をしていたことすらどうでもよくなっていました。
どちらが先に手を出したのか。
どちらが悪くて、どちらが正しかったのか。
どちらが謝るべきで、どちらが許すべきなのか。
そんなことはもう関係ない。
ただ、目の前に広がるこの惨状を、どうにかしなければ――。
二人は考えました。
どうすれば、元の雄大で美しい宇宙に戻せるのか。
姉が一つの提案を出しました。
「壊れた星の残骸を集めて、一つの大きな星を創ろう」
妹も一つの提案を出しました。
「なら、その星に人間を誕生させて、私たちの代わりに星を創ってもらおう」
二人はお互いの提案を受け入れ、まず姉が宇宙に散らばる無数の星の残骸を集め、それらをひとつにまとめて、大きな星を創りました。
次に妹が、姉の創ったその星に生命の息吹を吹き込み、人間が生まれる事の出来る環境を整え、自分達の知る限りの記憶と知識を星中にばら撒きました。
あとは、この星に人間が誕生するのを待つだけ。
二人は待つ間に、この大きな星に名前をつけることにしました。
名前とは、とても大切なもの。
適当につけた名前では、名付けられたモノがその影響を受けてしまうかもしれません。
だからこそ、慎重に考えなければなりません。
二人は悩みました。
この星に私達の願いを託すのにふさわしい名前とはどんなものか。
数えきれないほどの候補を挙げ、何度も何度も考え直し、ついに納得のいく名前を思いつきました。
姉が創ったこの大きな星の名前は【地球】
限りなく大きいという意味を持ち、
生命を育む母なる大地を象徴する名。
二人はこの名前を気に入り、地球をたいそう可愛がりました。
そして星に名前をつけてからしばらくした後、とうとう、地球に人間が誕生しました。
ここまでくれば、もう二人がやるべきことは多くはありません。
宇宙に新たな星を生み出すためには、そのきっかけとなる星々の種子が必要でした。
星々の種子が花開く時、その花びらは天高く舞い上がり、やがて星となって宇宙を彩るのです。
その種子を作るため、姉は再び宇宙を駆け巡りました。
地球を創る時に拾いきれなかった星のかけらを集め、一つにまとめ、星の種子を作りました。
妹はその種子と生まれたばかりの人間たちが健やかに育つよう、自らの身体を分けて、大きな陽の星と、強い力を持つ小さな星になりました。
姉はもはや言葉を発することのない二つの星となった妹を優しく見つめると、自らもその身を分け、種子を包み込むと、地球の大地の奥深くへと潜っていきました。
姉はこれから何百、何千、何万年と待ち続けるでしょう。
妹の二つの星から降り注ぐ力を受け、種子を育み、
あらゆる外敵や災厄からその身をもって守りながら。
いつか、その種子が花開くその時まで。
妹はこれから何百、何千、何万年と待ち続けるでしょう。
誰もいない孤独な宇宙の中で、姉と種子と人間達を見守りながら。
いつか、その種子が花開くその時まで。
「「私たちが犯した罪を、あなたたちに贖わせることを、どうか許してください。
私たちの勝手で、あなたたちを生み出したことを、どうか許してください。
恨みも、謗りも、甘んじて受け入れます。だから……どうか……どうかお願いです」」
「「この種子の花を咲かせてください」」