第6章: 魔法の探求
村の静かな日々が流れる中で、エマの心はますます「魔法」という概念に惹きつけられていた。
その言葉には、神秘と可能性の重みが宿っていた。
彼女の幼い思考は止めどなく回る——魔法って何? どうやって使うの? いつか私も使えるの?
そんな問いに対する答えは、思いがけない形で訪れた。
静かな午後、傾きかけた太陽が窓から長い金色の光を落とす中、エマはふと廊下へと這い出た。
そのとき、かすかなエネルギーの波動が彼女を引き寄せるように響く。
——エリーの部屋からだ。
扉はわずかに開いていた。隙間から覗くと、姉が床に座り、静かに瞳を閉じていた。
まるで、彼女だけに聞こえる音楽に耳を傾けているかのようだった。
陽の光がエリーの髪を照らし、柔らかな琥珀色の輪を作る。
そして部屋全体が、何か目に見えぬ力で脈動しているように感じられた。
エマは興味津々で、音を立てないように近づいた。
すると——
エリーの身体の中心から、淡い光がゆらめくように生まれた。
最初は薄ぼんやりとした輝き。それがやがて形を成し、小さな光の球体 へと変わっていく。
赤、金、白——
その核の中で、様々な色が踊るように混じり合っていた。
エマは息をのんだ。
「……すごい……」
彼女のささやきは、光のかすかな振動に紛れ、かき消された。
その時、部屋の空気が変わる。
微かな風がエリーの髪を揺らし、チュニックの端をふわりと持ち上げた。
エリーは眉を寄せ、静かに手を掲げる。
「——風術・浮遊。」
その言葉は、まるで空気そのものに刻み込まれたように響いた。
風が、形を持ったかのように渦を巻き始める。
そして、まるで見えない手に抱えられるように、エリーの体がふわりと浮かび上がった。
エマの目は、驚きと感動で見開かれる。
しかし——
突然、風が揺らぎ、光が淡くなった。
次の瞬間、**どさっ** という音と共に、エリーは床に落ちた。
「いたっ……また失敗かぁ……」
彼女は頭を掻きながら、小さく笑った。
けれど、その瞳には、諦めの色はなかった。
「……やり続けるしかない。」
膝の上に手を置き、再び瞳を閉じる。
「もっと強くならなくちゃ。エタンとエマを守るために。」
その言葉は、エマの胸の奥に深く響いた。
私も学びたい。
私も、強くなりたい。
皆を守るために。
小さな拳をぎゅっと握ると、彼女は決意を胸に、その場を後にした。
——目指す先は、図書館。
階段を慎重に降り、あの重厚な扉へと向かう。
押し開くと、そこには変わらぬ香りが満ちていた。
羊皮紙の匂い。
革表紙の感触。
知識と秘密の詰まった、沈黙の空間——。
エマは迷わず、本棚へと進む。
以前見つけた本——《魔法》と書かれたあの一冊を探す。
小さな手が背表紙をなぞる。ひんやりとした感触が指先に伝わる。
そして——あった。
金色の文字が、かすかに光を反射する。
エマは床に座り込み、本を開いた。
そこには、魔力の流れ、集中の技法、空気からエネルギーを引き出す古代の技術が記されていた。
「……これだ。」
その言葉は、図書館の静寂に溶けるように消えた。
ページをめくるたび、彼女の心の奥に確かな決意が芽生えていく。
「……私も学ぶ。強くなる。エリーみたいに。」
幼い指が、発光する球体の図をなぞる。
「……私が皆を守るんだ。」
本棚がきしみ、ページがふわりと揺れる。
まるで図書館そのものが、彼女の決意に応えているかのようだった。
エマは微笑み、本をそっと元の場所へ戻した。
「また来るよ。」
小さく囁いたその言葉は、静かな空間に溶けていった。
——幼い彼女の中で、何かが目覚め始めていた。
それはまだ小さな炎。
けれど、確かにそこにある。
知識がここにある。
答えもここにある。
私は、この場所で、世界の秘密を解き明かす——。
そう心に誓いながら、エマはゆっくりと保育室へ戻っていった。
旅の始まりは、静かで、しかし確かなものだった。
彼女の未来が、ゆっくりと動き出す——。