泡沫の永遠_1
初めて見たとき、深い夜を纏っているような女性だと思った。
その身は黒一色に包まれており、裾の長いワンピースや後を引く羽衣のような薄く透ける生地がそうさせたのかもしれない。
しかし視線を上に移すとそれだけじゃない、とすぐに分かった。
まるで黒で染め上げたかのような絹糸。瞳は、その水晶体が光に透過されても尚黒だとしか思いようがない程漆黒に濡れている。
……それでもって、彼女の表情が動くことはない。
この一刻半にもわたる長旅で彼女の顔は喜怒哀楽に揺れることもなくただそこにあったのだ。それは私に夜の静けさや冷たさを彷彿させた。私はその横顔を一刻半の間ずっと、マナーの悪い同乗者として見つめていた。
と、突然プツリとマイクが入り車内放送がかかった。天井から響く若い男の声が次の停車駅を繰り返し告げこれで何度目になるか乗客への感謝が述べられる。「あぁこの旅も終わりか」と思い、列車から降りれるという解放感と彼女を最後まで見届けることのできないという寂寥感とを感じた、その時だった。
彼女がフッと息を吐き出すようにして笑ったのだ。瞳を閉じ睫毛を伏せ、ただ僅かに口角を上げるだけのその微笑だが、それはまるで。
___そう、それは、まるで。
何かを愛おしむような。
知りたい、と、思う。
何が難攻不落の彼女の心を攻め落としたのか?
彼女は何を思っているのか?
彼女に何があったのか。
それは、まだ知らない物語。