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8話

 新天地での生活も半年程の月日が流れ「黒猫と美女」は、パーティーランクSにまでなっていた。



 勿論、エクスのおかげだったがそれだけじゃない。エクスと一緒にクエストをこなす事で俺のレベルも格段に上がっていた。経験値の高いモンスターを倒す事で、尋常ではない速度でレベルアップしていた。



 兵士育成所卒業時のステータスはオールBだったが、今やオールS。魔力に至ってはSSランクにまで到達しようとしている。自慢ではないが、もはや上級冒険者といっても過言ではない。



「ご主人様きてくださいっ!」



 掛け声に合わせて俺はエクス目掛けて走った。

 エクスが中腰になって手の平を組んで待ち構えている。勢いそのまま両手に片足をかけると、エクスは力一杯、

──俺を上空へと放り投げた。


 真下にはバジリスクと呼ばれる大蛇、Aランクモンスターがうごめいている。



「くらえーー!」


 手にしているプラチナソードを落下スピードを利用して振り下ろし、バジリスクの首元に斬撃を叩き込んだ。

 衝撃が手に伝わったや否や、その後は水でも切るかのように斬撃はバジリスクの肉を断った。

 着地したのと同時に大きな頭がドスンという音を立てて地面に衝突した。



「ご主人様っ! お見事ですっ!」

 目をキラキラさせて浮かれるエクスの背後で、首を失ったバジリスクの胴体が血飛沫ちしぶきをあげてのたうち回っている。



 き、気持ちいいぃぃーー! 

 これぞ出来る男の優越感。



 モテる以外なんの取り柄もなかった俺がたった今、Aランクモンスターを狩ったのだ。


 俺はヒモ生活で失った、男としての自信と威厳を取り戻したのだった。自分の成長に酔いしれ、その喜びを感慨深く噛み締めていた。


 プラチナソードに付着した返り血を払い、さやに収めるとつかを握り締め、余韻に浸る。



 やればできるじゃん。

 これぞ異世界ファンタジーの主人公。



 うん? 何やらエクスがじっと見つめている。視線を追うと握りしめたプラチナソードの柄に辿り着いた。エクスの心中を察した俺はすぐさま柄から手を離す。



 待て待て待て待て! 

 えっ? 剣と剣でも嫉妬するものなの?

 相手が量産型の名のない剣でも?



 たしかにプラチナソードの柄をニギニギしちゃったけど……。



 大股歩きで距離を詰めてくるエクスにたじろいだ。表情からは真意が読み取れない。目の前でピタリと止まったエクスは、


「……ご主人様っ! 今日はバジリスクのステーキですねっ!」


 予想に反して満面の笑みをみせた。その表情にホッと小さく息を吐く。


 なんだよ。ビビらせやがって。

 バジリスクステーキは俺の大好物だ。

 歯応えある肉質がジューシーで美味い。

 エクスの言葉に唾液がみ出る。



「バジリスクのお肉は精力もつきますからねっ!」



 エクスが耳元で囁きパチリと片目を閉じた。

 ぞわりと心地の良い刺激が走る。


 期待していたのは、──そっちかーーいっ!


 まっ、いいだろう。強者つわものに色は付きものだ。それにエクスはあげまんに間違いない。俺は今夜の晩餐を想像して鼻息を荒くした。

 エクスめ。自信を取り戻した男は一味違うぞ! 覚悟しておけ!

 


 いきり立っている俺の背後で不意に、聞き慣れない声がした。



「随分と強くなられましたね」


 振り返ると貴族のような格好をしたボサボサ頭の男がいた。血色の悪い青白い肌に、目の下のたるみは明らかに不健康そうにみえる。


「あんまり強くなられると困るんですがね。ククククク」


 下卑た笑いを浮かべる男のかたわらには二人の女性が寄り添っていた。

 一人は胸元だけが大きくはだけたボンテージスーツをまとった美女。

 もう一人は露出度の高いビキニアーマーを身に付けた美女。

 二人とも冴えない男とは不釣り合いな、──絶世の美女だった。



「変態さん、早くお仕事を終わらせて楽しみましょうよ」


 ボンテージスーツを着た美女がそう言って、男の耳に舌をはわせる。


「そんなに急かすなよ玩具ハニー、まずは味見をしてからさ」


 男が言うと、もう一人のビキニアーマーを着た美女が「ド、へ、ン、タ、イ、」と返した。


 ドヘンタイと呼ばれた男が口元を緩め、長い前髪で陰った眼があらわになる。



 全身の肌があわ立った。

 男の右眼は禍々しい紫紺しこんの眼。

 左眼は凍てつくような氷色眼ひょうしょくがんだった。


 俺と同じオッドアイ。

 そして、右側に寄り添うボンテージスーツの美女の眼は紫紺。左側に寄り添うビキニアーマーの美女は氷色眼だった。


 俺は即座に地面を蹴って後退り、プラチナソードを抜いて身構えた──。



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