65話
部屋に戻った俺は憤っていた。
公然とぶちまけられた凌辱。
パートナーとしての絆が音を立てて崩壊していた。
クレイを説教せねば──。
「おい、クレイ、ちょっとそこに座れ!」
「なんだよサモア、だっるぅー」
ドカッと椅子に腰を下ろしたクレイは、完全に酔っ払っていた。
普段、凛としている彼女の表情は紅潮し、今にもとろけてしまいそうな、フシダラな笑みを浮かべている。
「なぜみんなの前であんなことを喋ったんだ?」
俺の問いに、クレイは頬杖をつきニタニタと口角を吊り上げて何も答えない。そればかりか、長い脚を捻るように組み、斜めにもたれかかった姿勢で俺を見下している。
「二人の秘密だと約束したじゃねーか?」
いつもと様子が違うクレイに俺は躊躇しながらも怒りをぶつけた。
クレイは空を切り裂くように脚を組み替えて動じない。妖艶な笑みを張り付かせて、ただひたすらに俺を値踏みしている。
──ダメだ。
まともに話し合えるような状況ではない。
唖然とする俺の頬に何かが突きつけられた。
──グイッ。
グイッ、グイッ、グイッ。
ねじ込むように押し当てられたクレイの脚。スラリと伸びた脚が俺の顔に向けられ、その爪先が頬をグリグリと押し込んでいる。
思わず身体が硬直した。
視線だけでクレイを凝視する。
首に力を入れてその圧力に耐える。
所有者であり、主人である俺様に、
──お前は一体、何をしているんだ!?
謙虚で礼儀正しい、気品あるお前はどこに行ってしまったのだ!?
頬杖をついた彼女が蔑むような目つきで、俺を傍観していた。
微動だにしない表情で、俺の頬に刺激だけが送り込まれる。頬骨と指先がぶつかり、その間で頬の筋肉が歪む。ねじ込まれた爪先に視界が狭くなる。
「あ、あ、あ、、、」
言葉にならない声が、感情を伴わない声が、呼吸となって溢れた。
いい歳をした大人の顔面に美女の脚が食い込む。
ゆっくりと視線をその脚に這わせた。
濡れたように煌めく艶めかしい脚が、弧を描いて俺の顔に突き刺さっている。
しなやかな曲線美。程よくついた筋肉か筋を立て、それを支える太腿がムッチリとはち切れんばかりに体重に押し潰されていた。
ドクン。心拍数が跳ね上がり、ゴクリと息を飲んだ。
俺は無意識のうちに細くくびれた足首に両手を添えた。
トンっ、それと同時にクレイの親指に力が入り、俺の顔が軽く後ろにのけ反る。目の前には小ぶりな果実のような足の指が、たわわに実っていた。
──はむ。
俺はおもむろにそれを口に含んだ。
目を閉じて意識を研ぎ澄ます。
俺の粘膜に包まれる異物。
エナメル質の爪の感触と、弾力ある指の感触が松果体を覚醒させる。僅かに伝わる指先の体温を口内で温めるように溶かした。
舌を動かし関節を弄る。ぐるぐると舐めまわし、次第にそれをチュポチュポと吸引していた。
「ウフフフ」
静かに漏れる笑い声に目を開ける。
見上げた俺の視線の先に、クレイがほくそ笑んでいた。踏みつけるような眼差しに、プライドが本能の前にねじ伏せられる。雑念が一瞬にして消えた。
口内の突起物に縋りついた。交わることのない異物の結合が、毛羽立った感情をなだめる。
俺は無心で、クレイを見つめたまま足の指を吸い続けていた──。




