64話
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「クレイさん、サモアさん! 昇進おめでとうございますっ!」
騎士団に入団してから数年が経ち、俺とクレイは第二師団の団長と副団長に任命されることになった。
その祝いと称して、後輩たちが祝賀会を開いてくれていた。
「それではクレイさんの所有者でありますサモアさん、乾杯の音頭をよろしくお願いします!」
「えぇーー、まあ、そ、その、なんだ、、、まあ、あのーー、こ、こうして、昇進できたのも、み、みなさんの、お、おかげでありまして、、、」
あがり症の俺は人前で喋ることが苦手だった。見兼ねたクレイがすぐさま立ち上がる。
「代わりに私が──。このような会を開いて頂き感謝する。今日は私たちのおごりだ! 存分に飲んでくれ。それでは、第二師団の未来に乾杯!」
端的に纏められたキレ味鋭い挨拶に拍手と歓声が湧いた。
「クレイさんが団長でサモアさんが副団長なのが分かりましたわっ!」
後輩の誰かが茶化した。
「バ、バカヤロウ、俺だって決める時は決めるんだぜ!」
強がってみせたが、俺はこの関係性に満足していた。俺とクレイは二人で一つだ。優劣はない。お互いの弱点をカバーし合えればそれで良い。
──漢としての面目?
それは──筋肉でみせればいいだけの話だ。
どれだけ有能な女性であっても、これほどの造形美は創れまい。
「しかしサモアさん羨ましいですねっ! 俺も所有者になりたいっすわ!」
果実酒を飲み干した後輩が執拗に絡んでくる。
「いいなぁー、いいなぁー、あんな美人を毎晩抱けるなんて!」
「お、お前な、人の剣をそんな風に見るんじゃねぇーよっ!」
「で、どうなんすかっ? 夜のクレイさんはっ!?」
「うん? そ、そりゃまあ、最高だぜ! ああ見えて子猫ちゃんでなっ! 夜は俺がブイブイ言わせてるぜ! ガハハハ!」
こればかりは真実を話せなかった。
漢とは強くあるもの。
強い漢こそが理想。
S気質の漢こそが、漢の中の漢。
筋肉と強さだけは──譲れない。
「いいなぁー、俺も所有者になりたいっすよ! どこかに惚れてくれる剣が落ちてないですかね?」
「所有者になりたければ、まず筋トレを欠かさないことだな! ガハハハ!」
「でも、最近、所有者が増えてませんかっ?」
後輩の言葉に高笑いを飲み込む。
「新しく第一師団の団長に任命された方も所有者ですよね? たしか王族の血筋の……」
──眼球移植。
俺はお頭から聞いた話が脳裏をよぎった。
王国は強制的に所有者を創り出している。
それも続々と──。噂では所有者だけを集めた精鋭部隊を結成したとも囁かれる。
「やっぱり時代は所有者ですよね? 魔力を消費しないで魔法を使えるなんてチート過ぎますよっ!」
後輩が果実酒で舌を濡らしながら熱弁していたが、俺の耳には届いていなかった。
このままでは王国の勢力は増すばかりだ。
王国が所有者を意図的に生み出せるとしたら……。
俺たちホワイトアイズは名のある武器に狙いを定めた。王国よりも先に名のある武器を掻き集める。
「サモアさん俺の話、聞いてます?」
うわの空だった俺が後輩の声で我に返ると、遠くでドッと笑いが起きた。
何やらクレイを取り囲んだ連中が盛り上がっている。
そして突然、薄笑いを含んだ視線が俺に集まった。
「な、なんだよお前たち……」
嘲けるような視線に嫌な汗が噴き出す。
「サモアさんって夜は赤ちゃん言葉なんですかっ? ドMって話じゃないですかっ!?」
「しかもめっちゃ早いらしいですねっ!」
再び、笑いの渦が巻き起こった。
体中の血液が沸騰した。
ク、クレイ、お前、喋りやがったな?
「いーじゃねーか! サモア、今日は無礼講だ! なんでも包み隠さず話し合えるのが仲間ってもんだろっ! ひっくっ」
げっ!? めっちゃ酔っ払ってる。
それにこいつ、べらぼうに酒癖が悪い!
「ぼ、ぼくね、クレイのことが大ちゅきなの。もう、めちゃくちゃにちてくだちゃい」
クレイがモノマネを披露した。
爆破するような笑い声の中心で俺は言葉を失う。
滝のような汗が全身に流れた。
二度とクレイを酒の席には呼ばない。
そう、心に誓うのであった。




