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63話


 テーブルには豪華な料理が所狭しと並べられた。母はこの日のために、何日も前からメニューを考えて頭を悩ませていた。


「おかあさまの料理は本当に最高ですわっ! いつもバロウ様からお弁当のお裾分けを頂いておりますのよっ」



 お裾分け??

 勝手にぶんどっているの間違いじゃないかっ!

 僕はジロリと彼女を一瞥する。

 ふふふっとダーナは肩をすぼめてみせる。



「料理のお上手なおかあさまに、この国の家庭料理を教えて頂きたいと思っていますのっ」


 声色を変えたダーナが母を持ち上げた。ものは言いようだ。裏表の使い方に王女としてのしたたかさが垣間見える。


「私なんかで恐縮です……」

 母が緊張しながら取り分けた料理をダーナに差し出すと、


「うぅ〜〜んっ、感激ですっ!」



 お目当ての料理を前に演技なのか、本心なのか分からない猫撫で声を出してダーナは感極まった。胸元で組まれた手が右に左にクネクネと踊っている。


「──うん、美味しい。おかあさまこれは何ですか? 大変美味しゅうございますっ! あら、これは何かしら? うん、こちらも美味しいっ! これは美味びみ。これは至高。こちらはトレビアンっ!」


 矢継ぎ早に手をつけ、ダーナは目を爛々と潤ませる。気をよくした母が、

「王女様にそう言って頂けるなんて光栄です。たくさん召し上がって下さいませ」と硬くしていた表情を和らげた。



「ソラス様、どうですか? 一杯?」

 父は飲まなきゃやってられないといった様子で従者に果実酒を勧める。

「いえ、私は公務中のものでして……、お気に召さらずどうぞ」

 そう言って従者はデキャンタを受け取り、父にお酌する。

 父は、一瞬、残念そうな顔をみせてから、がれた果実酒を遠慮なくあおった。


 ダーナのごますりとお酒の力も相まって、強張っていた空気がなごみ、歓談が続く。王族と平民。身分の垣根を越えた和気藹々あいあいとした雰囲気に僕は胸を撫で下ろした。

 


「私は眼と魔力について研究をしているのですが……」



 お酒が回ってきたのか、父が得意げに切り出した。

「ソラス様の眼はこの国では珍しい薄紅色ですが、ひょっとして隣国のご出身ですか?」


「ええ、私は王妃様と同じ故郷でして……」


 そう言われて、従者の眼に注目する。ダーナと同じ眼の色をしていた。


 ダーナの母、王妃は隣国の出身だった。眼の色は遺伝する。ダーナの眼は母親譲りだった。きっと従者の彼も彼女らと同じルーツを持つのだろう。

 ちなみに僕の家族は三人とも同じエメラルドグリーン。この国ではさして珍しくもない風属性の魔力だ。


「やはりそうでしたか! 薄紅色はたしか愛を司る魔力。派生亜種には魅惑や誘惑がありまして、サキュバスなんかが……」


「はいはい、お父さん、そこまでにして頂けませんかっ」

 父の話が長くなる前に母がグラスを取りあげた。お酒を飲んで眼の話をしだすと、父の話は長い。


「そうだ。王女様からお菓子を頂いておりますの。食後のティータイムなんてどうかしらっ」


 さすが母。ナイス判断だ。


「おかあさまっ! 私もお手伝い致しますわっ」

「いえいえ、王女様にそのようなことをさせるわけにはいきませんっ」

「おかあさまっ、今日は王女としてではなくバロウ様のお友達としてお招きいただいておりますのっ! ぜひ、私にお手伝いさせて下さいっ!」

 困った母が従者に視線で訴えかける。

「これも王女様の社会勉強です。ぜひ手伝わせてあげて頂けませんか?」

 従者の声を母が甘んじて受け入れると、ダーナはぴょんと椅子から飛び降りて、母の後ろについて行った。



「うんしょ、うんしょ」

 ダーナが注がれたティーカップを一つずつ慎重に運び、僕の前にお茶が差し出された。



 もし彼女と結婚したら……。

 僕はふと、そんな妄想が膨らんで嬉しくなる。



「こちらは王女様が手作りでご用意してくださったクッキーですのよっ」

 母がダーナから頂いたクッキーをテーブルに運ぶ。中央にカラフルなドライフルーツをあしらったクッキーが並べられた。


「はいっ、 この日のために一生懸命作りましたっ! バロウ様、ぜひ召し上がって下さいませっ!」


 そう言ってダーナが、僕にクッキーを取り分けてくれた。

 僕は手に取ったクッキーをしばらく眺めてから一口で頬張った。



「あれ? なんだこれ⁇ ──からっ!」



 甘さと芳ばしさの奥に、いや、ど真ん中にどっしりと激辛の異物が……。


 思わずぺっと吐き出す。

 手のひらに赤い乾物。ドライフルーツ?

 いや、これは以前ハバネ・ロンパイに使われていた食材だ!


「ヒヒヒヒッ」

 ダーナが不敵な笑みを浮かべている。

 一つだけ僕用に激辛クッキーを用意しておいたらしい。


 こんな時にまで仕込んでくるなよっ!

 引きる僕の横で、


「王女様、うぢのむずごをよどじぐおねがびじまず……、ひっくっ」


 泥酔状態の父が赤ら顔でニヤついていた。


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