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56話


「しかし腑に落ちねぇーな」

 いつの間にか遺体の前にしゃがみ込んだ中年冒険者が訝しげに声を上げた。


「オレはこう見えてもSランク冒険者だ。自慢じゃないが死体なんて腐るほど見てきた。このやり口は相当の手練れだぜ! しかもかなりの業物わざものの使い手だ。おい、兄ちゃん、あんたもSランク冒険者って言ってたよな? ちょっとこっちにきて見てみろ!」



 中年冒険者に促され横たわる遺体を覗き込む。

「首を斬り落とすなんてのはな、至難の技なんだよ。拘束された動けない人間や死体の首とはわけが違う。この遺体はよ、外傷が一つしかねぇ。生きてる人間の首を一太刀で斬り落としてやがる。ものの見事な太刀筋だ。切り口が鮮やかすぎる」


 中年冒険者が感心するように言葉を紡ぐ。


「首の骨ってのは結構に硬いもんなんだよ。動ける人間の骨ごと断ち切るなんて非力な貴族連中には到底無理だろうな……。こいつはプロの仕事にちげぇーねぇーや」


 そう言って中年冒険者は兵長に視線を向けた。


「アンタさっき貴族の護衛たちの武器は城門で預かったって言ってたよな?」


「ええ、間違いなく。城内に帯同された護衛たちは全員丸腰でした」


「まあ、そうだろうな。それが社交界のマナーだからなっ! だから通常はよ、暗殺には毒が使われるんだよ。骨をも両断する大剣なんぞ所持してたもんなら目立って仕方ねぇーや。ところがよ、こいつは確実に大剣でやられてるぜ。懐に忍ばせられるような小刀じゃあ、こうはならねーからな」


「み、妙ですね……。殺傷能力の高い武器は誰もが城内に持ち込めないはずですから……」


 兵長が明らかに動揺しているのが分かった。それもそのはず、武器を取り締まるのは衛兵の任務だ。その部隊の陣頭に立つのが彼自身だった。もし落ち度があれば彼の責任になる。


「昨晩、城内にあった凶器といえば調理場の包丁ぐらいのもので……」


「いーや、出刃包丁をもってしてもこうはいかねぇーよ」


 二人の押し問答を聞き流しながら俺はピンときていた。



 名のある武器と所有者。

 ──犯人は所有者だ。



 名のある武器ならば人として城内に紛れ込むことが出来る。衛兵たちの検問も掻い潜れる。



 もし犯人が所有者だとするなら、見つけることは容易だろう。同じ眼の色をした女性を連れた成人男性。この組み合わせを探せばいい。


 しかしそこまで考えて俺は、一旦、言葉を飲み込んだ。

 俺が訪ねなければならないのはホワイトアイズだ。ここで犯人が御用になれば元の木阿弥もくあみ。本末転倒だ。なんとか話を誤魔化さなければ……。



 ふと、頭に前世で読んだ推理小説が浮かぶ。首無し遺体の殺人事件──。



「あの……」

 見切り発車で言葉が漏れる。

「どうした兄ちゃん?」

「……いや、この遺体って本当に伯爵家の御嫡男なのでしょうか?」


「どういうことだい?」

「衣服こそは本人の物でしょうが首がない為、本人確認が出来ない状況です。例えば、誰かの死体に衣服を着せ変えて首を斬り落としたとしたら……」


「ま、まさかっ……」

 中年冒険者と兵長が顔を見合わせた。

「だ、だとすると、伯爵家の御嫡男は生きている?」

「何のためにそんなことをする必要がある⁉︎」

 二人が食いついてきたのが分かり俺は饒舌になった。


「御令嬢と伯爵家の御嫡男は恋仲にあった。結婚を許されない二人。自分を死んだことにして影で愛を育む目論みだった。城内には死体役に適した奴隷たちも沢山いましたからね」


「て、ことはこの死体は御嫡男ではなく、枯渇人奴隷!?」


「あ、ありえるかもしれん……」

「お前たち、今すぐ奴隷たちの掌握を急げっ!」

 兵長がもの凄い剣幕で部下に指示を飛ばした。



 完璧だった。二人はありがちな推理小説のトリックにまんまと嵌ってくれた。



「一度皆様の話を伺ってみるのはどうでしょうか? 新しい証言もとれるかもしれません」

 俺は二人をやり込めて大広間へ降りることにした。とりあえず時間を稼ぎホワイトアイズにコンタクトをとらなければ……。



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