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52話


 大剣クレイモアの所有者となった俺に課せられた任務は、王国内部の潜入捜査だった。内政を探りホワイトアイズに情報を流す。


 いわゆるスパイ行為だ。


 所有者として大剣を操る俺にとって、それは造作もなかった。



 王国は俺を容易に受け入れた──。

 騎士団に入団した俺には王国の手口がありありと分かった。まず、魔獣討伐。これは茶番だ。魔獣という悪を作ることで人々の敵意を王国に向けないようにしている。自ら差し向けた魔獣を、自ら討伐することで民衆の支持を得ている。


 魔獣の襲撃は、いつも王国にとって都合の良いタイミングで起きた。


 領主たちの勢力が拡大している時。

 民衆の不満が暴発しそうな時。


 魔獣すらも操っている!? そう疑わざるを得なかった。これが魔王こと王の魔力か……。


 お頭の話では魔王の魔力は「傲慢」──欲望を支配する。魔獣たちに七つの欲望の一つ「憤怒」を与えて人々を襲わせている。それを王国が撃退する。まさに自作自演だった。



 しかしその話を聞いた俺には、不可解な「魔物」の存在が頭に浮かんだ。



 ──デュラハン。首無し騎士の亡霊。



 この国で頻繁に起こる物騒な事件の主犯とされる。首を斬り落とされた無数の遺体が各地で発見されていた。人々はそれをデュラハンの仕業だと恐れおののいた。デュラハンは奪われた自分の首を探す死霊アンデットと伝承される。が、──その姿を見た者はいない。はたして、デュラハンなどという魔物が実在しているのだろうか? 



 これも王国の謀略ではないか? 

 ──俺は顎に手を当てて考える。

 何かがおかしい?



 王国が魔物を操っているとするならば、必ず意図があるはずだ。もし、首無し遺体の犯人がデュラハンだとするならば、王国の意図がみえない。俺には計画性のない無差別殺人に見えた。 


 デュラハンの怨念? いや、デュラハンの伝承に乗じて王国は何かを隠蔽している。そう考える方がしっくりくる。寧ろデュラハンの噂すら捏造して吹聴している可能性がある。


 その証拠にデュラハン討伐の依頼をギルドに要請していたが、王国騎士団が自ら動くことはなかった。俺の知る今までの魔物討伐とは異質な何かがある。

 


 そして俺はある事をきっかけに真相の手掛かりを得た。

 


「おいっ! お前、一体なにしてやがるっ!?」

 俺は追い剥ぎの背後から腕を掴み、その異様な光景に驚愕した。追い剥ぎの手には短刀が握られ、刀身からは鮮血が滴っていた。


 通常、追い剥ぎは死体から金になりそうな代物を漁る。しかし、目下もっかの追い剥ぎは遺体の眼球をくり抜き、それを懐に入れようとしていたのだ。


「お、お前、その眼球をどうするつもりだ!?」


「騎士団の旦那、そう怖い顔なさらないで下さいよっ! 亡骸から金品を奪うことは悪いことじゃあないでしょーに! 資源は有効活用しませんとね」


「資源? 俺が聞きたいのはその眼球の使い道だ! それをどうするつもりだ!?」


「さあ、使い道と言われても、あっしは知りませんやね。高く買い取って貰えるもんですから……」


「眼球を高く買い取る? 一体どこで!?」


 俺は追い剥ぎにそう問いかけて、頭に浮かんだ仮説に身震いを覚えた。



 まさか、王国──。

 そう考えれば、すべての辻褄が合う。

 首無し遺体の目的は、首ではなく──眼球。この国の罪人は処刑されたのち、眼球をくり抜かれて生首を晒される。俺はそれを抑制の為の見せしめだと思い込んでいた。



 違う。王国は眼球を──集めている。

 ──何の為に!?



 追い剥ぎは眼球を資源と言った。

 眼球で何かを作っている?

 王国が密造している魔力の雫マジックヒールは涙に魔力を込めた物。遺体からくり抜いた眼球では製造が不可能だ。まだ他に、俺たちが知らない眼と魔力の秘密があるというのか?

 


 以前、お頭から聞いた話が脳裏をかすめる。



 ──お頭は幼い頃、俺たちと同じように、魔力の雫マジックヒール製造の資源として施設に幽閉されていたらしい。


 魔力の雫マジックヒールは、魔力が回復するアイテムと言っても、正確には魔力を分け与えるという物。つまり、誰かの魔力が回復する代わりに、誰かの魔力が消費される。



 回復ではなく、──移す。



 その役割をになう者たちが施設に集められる。罪人とその家族。資源として活用され、出涸でがらしとなった者の末路はどうなるのか。枯渇人となった成人男性は奴隷として、成人女性は娼館へと売り飛ばされる。じゃあ、子供たちは──?



 お頭はそれを「被検体」と言った。

 そしてお頭は、自らを被検体、唯一の成功者だと名乗った。──被検体の成功者?



 俺の脳内でぼんやりと、それでも確実に何かの輪郭が縁取られていく最中さなか


「それではあっしはこれで」


 追い剥ぎの悪びれた様子もない声がそれを遮った。

 俺は何も言えず、逃げ去る追い剥ぎの背中を呼吸するのも忘れて見つめていた。



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