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5話

 

 ──白眼。枯渇人の象徴。

 視力と魔力がない者のあかしとされる。



 俺はもともと、右眼が蒼白色そうはくしょく。左眼が漆黒眼しっこくがんと呼ばれる黒い瞳だった。


 以前に前世の容姿と一部違う箇所があると話したが、それがオッドアイ。左右の虹彩こうさいが違う人間だった。ところが幼い頃、突然、右眼だけが白眼になってしまったのだ。養護施設に預けられたばかりの頃の話だ。



 この世界の人々は、枯渇人の存在のせいで眼の色にかなり敏感だった。黒い瞳が珍しいという理由だけでモテるのはそれが原因かもしれない。

 白眼は忌み嫌われる。俺はその日から眼帯をつけて右眼を隠すようになっていた。

 


 エクスのメタモルフォーゼを使いこなせない原因はそこにあるだろうと、サモアさんは言う。



 たしかに、この世界では魔力と眼は密接な関係にある。クレイさんの眼はサファイアのようなブルーだし、サモアさんの眼もまた、同じブルーだった。そして水属性の魔力を発する。エクスの眼は蒼白色。俺が失った右眼と同じだ。


 メタモルフォーゼを使いこなすには、失った蒼白色の右眼を取り戻す必要があるのだろう。




『聖剣エクスカリバーは、なんらかの手違いで、自らを使いこなせない人間を所有者に選んでしまった』




 この話は王都中を駆け回った。

 俺は手違いの勇者として、王国騎士団の監視下から外れることになった。



「ご主人様ぁ〜、そんなに落ち込まないでくださいよぉ〜」


 エクスが頭をなでなでしてくれる。

「泣かない泣かない、ヨシヨシ、いい子だねぇ〜」

 ぐすん……。あれ? あれあれ? 俺はなんで落ち込んでるんだ? ようやく自由の身になれるではないか!

 もう、魔王退治のことなど考えなくてよい。そもそもメタモルフォーゼなんか使いこなせなくてもよいのだ。


 これからは世界の片隅でハーレム生活だ!!


 俺たちは宮廷に間借りしていた部屋を追い出されたために、自力で生活していかなければならなくなった。

 クレイさんとサモアさんが、旅支度としては充分すぎるほどの餞別をくれた。が、──いずれ資金は尽きる。

 仕事を探しておかないと──。



 まあ、めちゃくちゃ強いエクスもいるし、なんとかなるだろう。


 とりあえず、俺たちは冒険の定番、ギルドに行ってみることにした。



 ──俺は、俺の能力を見誤っていた。

 俺の本来の能力は「世界で一番モテる男」。

 噂を聞きつけた王都中の女兵士たちが、待ち構えるようにギルドに集結していた。



「あの〜、パーティーメンバー募集してませんかっ?」

「私、弓使いですっ! あと夜のご奉仕も得意ですっ!」

「このアマ! 抜けがけすんじゃねぇー! 私の方が胸おっきいですからっ! こんなペチャぱいじゃなくて私をメンバーに加えてくださいっ!」



 われ先にと群がる女兵士のかたわらで、エクスが鬼気迫る形相で腕を組んでいる。むっすぅーではない。しおらしい目は吊り上がり、体からは、もうもうとした蒸気が立ち上っている。



 ぎりりりりっ!

 歯ぎしりの音が耳障りなリズムを刻んで、次第に大きくなった。



「てめぇーーらっ!! 私のご主人様にちょっかいかけるんじゃねぇっっーーーー!!」




 伝説の聖剣、エクスカリバーの咆哮。

 群衆は爆風にさらされた砂埃の如く、跡形もなく散り散りになった。



 あれ? ひょっとしてこれ……、、、

 ハーレム生活とか、──無理じゃね?

 聖剣と謳われるエクスカリバーの一撃に一抹の不安が残る。



 ……まっ、とりあえずは、エクスがいてくれればそれでいいか? 


 俺の、ど真ん中の、超どストライクの美女だし──。



「ご主人様、何をニヤニヤしているんですかっ! もうっ!」


 宿屋への道中。襟首をつかまれ、傾斜45度の体勢で引きずられていく最中さなか、俺は、そんな風に考えていた。


 仰ぎ見る、エクスの瞳のように澄んだ青空が眩しい。

 カツカツと王都の石畳を闊歩かっぽするエクスの足音が妙に心地良かった。



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