43話
彼女の名はデュラン・ダルと言った。
双剣の暗殺者、スバールバル・グランデの所有物だった。
──氷剣デュランダル。噂には聞いたことがあったが、まさか実在するとは。名剣らは姿を女性に変える。名剣と肉体関係を持ったオレは一時的にではあるが、──デュランダルの所有者となった。
氷結加従──、男が唱えた氷属性の魔法は、凍結の力を持って誓約の契りを交わす。氷色眼を授かったオレは男の従者となり、彼女を預かった。
オレは男を妬んでいた。
彼女に魅了されていた。どんなに踠いても手に入れることのできない仮初の関係。それを承知で愛おしむ儚さは、空虚であり絶望でもあった。
しかしそれでも添い遂げられる喜びには変えることが出来ず、オレは無常な日々を送ることになった。
主君である男がオレに命じたのは、──暗殺だった。
標的は聖剣エクスカリバーの所有者である黒眼の男。
盗んだ金を使い込んでしまったオレには断れる理由がなかった。そして僅かな期待を抱く。任務を無事に成し遂げることが出来れば、このまま彼女と一緒にいられるかもしれない。あわよくば半永久的にこの関係を続けられるかもしれない。彼女と愛し合えるのであれば、男に媚び諂らう人生も悪くはない。オレは彼女の虜になっていた。
武術とは縁のない生活を過ごしてきたが、伊達に盗人などという物騒な稼業に身を置いてきた訳ではない。オレは用意周到な人間だった。すべては綿密な計画から始まる。
オレはターゲットを徹底的に調べあげた。
黒眼の男は「黒猫と美女」Sランク冒険者。パーティーメンバーは他三名。まず、カリバーと名乗る蒼白眼の金髪女。こいつが聖剣エクスカリバーだろう。
そして、瑠璃色の髪をした男。用心棒とのことだが、かなり厄介な人物だった。戦斧神セイライ、雷神斧の使い手として名を馳せる。もう一人がセイライの武器、ラブリュス。巨漢のどブスだ。
一編に彼らと対峙することは賢明ではない。一人になった時を狙う。そこでオレは彼らの生活習慣を探った。
彼らは交易都市の一軒家で暮らしている。日中はギルドに出掛けて家を空ける。夕方頃に帰宅するが、四人が離れ離れになることはない。単独行動の望みは薄い。
最も効果的なのは寝込みを襲うことだ。
家屋に潜入して寝静まるのを待つ。
オレは彼らの住まいに忍び込んで間取りを確認した。セイライとラブリュスは二階の一室を寝床にしている。黒眼の男と金髪女は一階だ。両者とも毎晩仲良くちちくりあっている。
身を潜める場所は一階の寝室にあるクローゼットが最適だった。情事に耽っている最中を狙えば不意をつける。多少の物音がしても二階から降り注ぐ、どブスの喘ぎ声が掻き消してくれるはずだ。ヤツの声はけたたましい。騒音としての役割を充分に果たす。二階の二人に気づかれる前に事を済まして、窓から脱出する。
──完璧な計画だ。
オレは練り込んだ算段を幾度となくシュミレーションして、彼らの家に潜伏した。




