表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/72

43話


 彼女の名はデュラン・ダルと言った。

 双剣の暗殺者、スバールバル・グランデの所有物だった。


 ──氷剣デュランダル。噂には聞いたことがあったが、まさか実在するとは。名剣かのじょらは姿を女性に変える。名剣かのじょと肉体関係を持ったオレは一時的にではあるが、──デュランダルの所有者となった。



 氷結ヒョウケツ加従カジュウ──、男が唱えた氷属性の魔法は、凍結の力を持って誓約の契りを交わす。氷色眼を授かったオレは男の従者となり、彼女を預かった。



 オレは男をねたんでいた。

 彼女に魅了されていた。どんなにもがいても手に入れることのできない仮初かりそめの関係。それを承知でいとおしむ儚さは、空虚であり絶望でもあった。

 しかしそれでも添い遂げられる喜びには変えることが出来ず、オレは無常な日々を送ることになった。



 主君である男がオレに命じたのは、──暗殺だった。



 標的は聖剣エクスカリバーの所有者である黒眼の男。

 盗んだ金を使い込んでしまったオレには断れる理由がなかった。そして僅かな期待を抱く。任務を無事に成し遂げることが出来れば、このまま彼女と一緒にいられるかもしれない。あわよくば半永久的にこの関係を続けられるかもしれない。彼女と愛し合えるのであれば、男にへつらう人生も悪くはない。オレは彼女の虜になっていた。



 武術とは縁のない生活を過ごしてきたが、伊達に盗人などという物騒な稼業に身を置いてきた訳ではない。オレは用意周到な人間だった。すべては綿密な計画から始まる。



 オレはターゲットを徹底的に調べあげた。



 黒眼の男は「黒猫と美女」Sランク冒険者。パーティーメンバーは他三名。まず、カリバーと名乗る蒼白眼の金髪女。こいつが聖剣エクスカリバーだろう。

 そして、瑠璃色の髪をした男。用心棒とのことだが、かなり厄介な人物だった。戦斧神セイライ、雷神斧の使い手として名を馳せる。もう一人がセイライの武器、ラブリュス。巨漢のどブスだ。


 一編に彼らと対峙することは賢明ではない。一人になった時を狙う。そこでオレは彼らの生活習慣を探った。


 彼らは交易都市の一軒家で暮らしている。日中はギルドに出掛けて家を空ける。夕方頃に帰宅するが、四人が離れ離れになることはない。単独行動の望みは薄い。



 最も効果的なのは寝込みを襲うことだ。

 家屋に潜入して寝静まるのを待つ。



 オレは彼らの住まいに忍び込んで間取りを確認した。セイライとラブリュスは二階の一室を寝床にしている。黒眼の男と金髪女は一階だ。両者とも毎晩仲良くちちくりあっている。


 身を潜める場所は一階の寝室にあるクローゼットが最適だった。情事に耽っている最中を狙えば不意をつける。多少の物音がしても二階から降り注ぐ、どブスの喘ぎ声が掻き消してくれるはずだ。ヤツの声はけたたましい。騒音としての役割を充分に果たす。二階の二人に気づかれる前に事を済まして、窓から脱出する。



 ──完璧な計画だ。



 オレは練り込んだ算段を幾度となくシュミレーションして、彼らの家に潜伏した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ