42話
こいつは一体なにを考えているんだ?
自分の女をオレに抱かせて欲情しているのか? オレたちを眺め、それを肴に、自分の性欲を昂ぶらせているに違いない。変態だ。こいつは鬼畜だ。
虚な目をした男は、くの字になった女の両腕を手綱のように掴み背面から情欲を打ちつけていた。
「こ、こ、壊れちゃうゥーーーー!」
女は苦悶にも似た表情を張り付かせて、獣の遠吠えの如く顎を突き上げ、その身をよじらせている。
オレは目の前で展開される他人の情事に、一瞬、怯んだがそれどころではなかった。推し迫る快媚の高みに、本能が歯止めを効かすことなく猪突し、めくるめく瞬間に向けて腰を動かし続けた。
『『イ、イクゥッーーーーーー!!』』
二人の美女が互いに顔を見合わせながら、共鳴するように仰け反り喜悦の声を上げる。オレもまた、その声に昂ぶり、絶頂の欲液を噴射した。溜まり続けた情欲の根源が解き放たれ、彼女の中でヒクヒクと余韻を引きずった。
「ひょーひょっひょっひょっ!」
正気を取り戻したオレは、男の高笑いに血の気が引いた。色欲が払拭され無心となったオレにとって、男の存在は脅威以外の何ものでもない。
繰り返された嗜虐が浮かび、刻み込まれた恐怖が痛みとなって、再び疼き出した。根深く染み込んだ憂懼がオレの精神を支配し、ガクガクと体が震える。呼吸が浅くなり、締めつけるような動悸が突如として襲いくる。
や、やめてくれ……。
もう、勘弁してくれ……。
ことを終え、オレの前に立ち塞がる男の姿に、
──驚愕する。
──男の性器がそそり立っていた。
今しがたことを終えたはずの男の性器は、上半身に着込まれた豪奢なウエストコートの裾を押しのけ、突っ立っている。
拳ほどもある特大な亀頭に、腕のような太さの幹がたくましく聳え立ち、──そしてその巨根にはゴツゴツとした異物が埋め込まれていた。
──異形の性器。
男性としては華奢な体に違和感として映り込む極太の性器。別の生命体が寄生しているかのような物体は赤黒く光り、魔剣の如く猛っている。
ひっ、ひぇえ……。
目の前に突きつけられた怪奇な物体に、男としての威厳も格も、何もかもを踏み躙られて、腑抜けた声が漏れた。
ゆ、許してください!
な、なんでもします! 命だけは助けてください!
お、お願いします! ど、どうかご慈悲を……。
オレは無意識のうちに命乞いをしていた。
生きることにしがみついていた。
彼女と交わることで生への執着心が芽生えていた。生きる喜びを思い出していた。自然と涙が溢れ頬を伝う。
「ヒヒヒヒッ、ヒャハハハハッーーァ!」
男は下半身を剥き出しにしたまま甲高い声を飛ばすと、薄気味悪い表情でジロリと凄んだ。
物色するような視線に怖気付いたオレは呼吸することも忘れ懇願する。
た、頼む! 助けてくれっ!
なんでもするからっ!
オレの命乞いを掻き消すように男が言葉を跳ね上げる。
「────『氷結加従』────」
奇声にも似た雄叫びとともに、凍てつく光が霧散して、それが次第に一箇所に集まり、オレの目の中へと吸い込まれていく。
眼球がピキピキと軋み凍気に浸食されるような感覚に見舞われた。
パキンッ!
弾ける音を伴ってオレの眼球が、──凍結した。
つ、冷てぇ……。
な、なんだこれ? 眼がキンキンする。
「そいつを貸してやる」
男がほくそ笑むと先の彼女が詰め寄りオレの頬に手を添えた。彼女はオレの顔をグイッと持ち上げ啄むように口づけを交わし、潤んだ瞳を輝かせた。
その瞳は、──凍てつく光を宿した氷色眼だった。
「フフフフ、あなたが私の所有者ね。よろしく、間男君っ!」




