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27話


 ドラゴンスレイヤーたちの実態。

 まず、居住区に一番近い渓谷を第一エリアと呼び、遠のくにつれて第二、第三と順に区画分けされている。観光客の立ち入りが許されているのは、第一エリアまでで、その先がドラゴンスレイヤーたちの狩場となっていた。



 第二エリアは若いクリスタルドラゴンの生息地となっている。ドラゴンは群れを成す。群れには序列が存在する。主食の岩石が豊富な、手付かずの最深部こそが、ドラゴンにとっては最良の餌場。群れを追い出された弱くて若いドラゴンは新たな餌場を探さなければならない。そこで居住区に近い第二エリアへと出没する。



 サバンナやジャングルに生息する獣のように、彼らにも種としてのルールがあった。

 若いクリスタルドラゴンの特徴は、クリスタルが育っていない。身体を覆う水晶は皮膚からの分泌液が蓄積されて形成される。年輪のように、生きた年月に比例してクリスタルは肥大化していく。つまり、若いドラゴンの商品価値は薄い。


 ドラゴンスレイヤーは彼らを狩らない。彼らを見守り育つのを待つ。よって第二エリアは保護区に該当し、ドラゴンスレイヤーの主戦場は第三エリア以降にある。



 第三エリアからは、より良い餌場を求めてドラゴンたちは縄張り争いを繰り広げていた。群れと群れが衝突して、勝者はさらに群れを大きくする。群れの中で覇権を握った雄は雌を独り占めにする。敗者となった雄は群れを追い出されることになる。


 ドラゴンスレイヤーはそれを狙った。仲間を失った孤独な雄こそが、絶好のターゲットとなった。

 勝者となった群れは勢力を拡大していき、最深部へと向かっていく。奥に進めば進むほど強い群れが存在する。商品価値の高いクリスタルドラゴンが存在する。



 ところがドラゴンスレイヤーは、そこへは立ち入らない。なぜなら、彼らは弱いからだ。いや、語弊がある。正確には屈強なクリスタルドラゴンを相手にできるほどの魔力を保有していないからだった。


 クリスタルに覆われたドラゴンの強固な皮膚を魔力なしで打ち破ることは不可能。長年この地に住むSランク冒険者の魔力はすでにジリ貧で、レベルアップによって補填はしていたが、かけ出し冒険者ほどの魔力しか保有していなかった。



 そこで新参者に白羽の矢が立つ。

 魔力の消耗が低いSランク冒険者はギルド内で重宝された。



 ギルドを訪ねた翌日。俺たちは配属先を決めるための魔力測定を行なっていた。


 まずはセイライさん。


「えっ! ええっーー! こ、これは凄いですニャ!」


 武力特化型だと謙遜するセイライさんだったが、さすがは戦斧神と畏怖される男。魔力は600を超えていた。SSランクを示す数値。魔力を消費しない所有者なのだから当たり前といえば、当たり前だ。


 次は俺。


「こ、これはっ! とんでもない数値ですニャ!」


 魔力測定器が示す数値は823。SSSランクの領域に達していた。


「あ、あなたたち一体、何者なんですニャ!?」


 獣人族のギルドスタッフが目をパチクリとしばたかせた。

 魔力の倹約家でありながら高ランクのモンスターばかりを一人で討伐してきた。これくらいは当然だろう。


「次は私の番ですねっ!」


 慌てふためくスタッフを尻目にカリバーが腕をぶんぶん回して意気込んでいる。


 カリバーやエクスの魔力は無限。測定するとどうなるんだ? 純粋に興味を抱き、固唾を飲んで見守った。



「よろしくお願いいたしますっ!」


 カリバーが肘を伸ばして採血のようなポーズで腕を突き出した。


「………………」


 いやいやいやっ! 俺たちがやるの見てましたよね? 

 魔力測定は手のひらをかざすだけなんですが!


 カリバーは目を閉じて、注射でも打たれるかのように口をへの字に食いしばっている。


 ダメだこりゃ! 超ど天然の金髪美女。


 一向に測定されない現状に気づいたカリバーは、恐る恐る目を開けて「あっ! そうでしたねっ!」と小さく舌を出して手のひらを測定器にかざした。



 ──するとどうだ。測定器の針は体重計に巨大な岩でも乗せたかのようにギュインと振り切れて、測定不能の文字を差し示していた。


「うわっ! うわっわわわわっーーーー!!」


 スタッフが目を剥いて飛び上がった。


「……こ、この測定器では1200までしか測ることができないですニャ、か、彼女は一体……」


 魔力を消費しない名のある武器。そりゃそうだ。至極当然の結果だ。


「し、しばらくお待ちくださいニャ!」


 スタッフは慌ただしく転がるように奥の部屋へと消えてしまった。

 



 奥からやってきたのはコモドだった。手には槍状の剣が握られていた。長い柄の先端には鋭利な円錐の穂があしらわれている──長大なランス。


 これがアスカロンか。白く立った穂先の光は天を貫くほどの熾烈さが窺える。


「今回の新入りは当たりだったにゃ!」


 コモドがアスカロンを誇らしげにかざし、金剛眼を鋭く光らせた。放射される煌びやかな眼光は、幼稚さ故の残酷さを覗かせ、好奇心に囚われた光は、逡巡しゅんじゅんのない欲望そのものにもみえた。



「そうと分かれば歓迎会をするにゃ。今日は久しぶりにパーティーにゃ!」


 コモドの一声にギルド内は騒然となった。



 ──パ、パーティー??

 その響きに疑問符が浮かぶ。


 コモドがパーティーと称して向かった先は、魔晶ドラゴンの生息地だった。



 ──エリア17。

 17区画に分けられたドラゴンキャニオン最深部。


 通常のクリスタルドラゴンは水晶に覆われている。稀に魔水晶と呼ばれる魔力を宿した石英を纏うドラゴンが存在する──魔晶ドラゴン。

 ダイヤモンドドラゴンもそれのたぐいと言われている。


 無色透明なクリスタルに対して魔水晶の色彩は実に様々だ。風属性のエメラルド。水属性のサファイア。火属性のルビー。光属性のアメジスト。その色合いは魔力の属性に由来し魔道具の素材となる。いずれの魔水晶も希少価値が高く、討伐報酬は30億ドルエンとも噂される。



「新人どもっ! 惜しみなく魔力を使ってドラゴンを討伐するにゃ! 報酬ははずむにゃー!」


 数人のドラゴンスレイヤーを連れたコモドが浮かれ勇んでいた。

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