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26話


 ──マダム・アスカ。

 その名をアスカ・ロンと言った。

 アスカロン──別名、竜殺しの剣。


 彼女は名のある武器だった。従って所有者がいる。マスターの話ではアスカロンは獣人族にしか扱えないらしい。そこでピンとくる。



 街の衛兵はみな獣人族だった。猫耳を携える亜人種。身なりの良い格好をしているのは、みな獣人族で、ドラゴンスレイヤーと呼ばれるSランク冒険者たちは、その地位にそぐわないみすぼらしい格好をしていた。



 Sランク冒険者といえば賞金稼ぎの中でも最高ランク。俺ですらそれなりの小金持ちだ。


 ──なるほど。マスターの話が腑に落ちる。ここでの生活は不当な対価を支払わされる。物価は王都の三から五倍。すべてに於いて重税が課せられ、支配層である獣人族がせしめている。ドラゴンスレイヤーを背取る獣人族。それがこの街の構図だった。


 長居しては資金が底をつく。俺は先を急いで、ドラゴンスレイヤーギルドを訪ねていた。




 簡素な木造建築が主とする景観の中に、一際大きな建造物がある。レンガ造りの外観には煌びやかなクリスタルの装飾があしらわれ、一目で富裕層の所有物だと分かる。


 ギルド内で受付を済ませるとマダム・アスカにお目通りすることになった。

 天蓋てんがい付きの豪華なソファーに頬杖を付き、両脇には足枷あしかせを嵌められた人間の女性が奴隷のように大きな羽団扇はうちわあおいでいた。


 人間奴隷? 枯渇人や獣人族の奴隷ならば見たことがあるが、この街では逆なのか?



「新しい冒険者ね。帰属を認めるわ。ドラゴンスレイヤーの名に恥じないよう精進しなさい」



 妖艶な声色に、俺は人間奴隷から目を背け、マダム・アスカを見据えた。ダイヤモンドの如く輝く金剛眼。歳の頃は40代くらいだろうか? 金剛眼にも劣らない美貌。美魔女ともいえる色香が高貴な気品の中に漂っている。


 組まれた脚は、スリットの入ったボディコンシャスなドレスから艶めかしい太ももを露出し、成熟した大人の色気が醸し出されていた。


 唇に差された真紅のルージュ。ウェーブのかかったブロンドの髪。頬に浮かぶ小さなホクロは、古き良きアメリカ映画の女優さながらにセックスシンボルを彷彿させた。



「はっ、かしこまりました」


 謹厚な態度こそ最大の防御。俺は厄介ごとを避けるべく慎ましく振る舞い、マダム・アスカに忠義を示すと、その場を早々に去ろうとしていた。


「待つにゃ!」


 唐突に降りかかる獣人族特有の語尾を含んだ指示。その声に足を止めて振り返る。先程までマダム・アスカの膝を枕にして寝そべっていた獣人族の青年が立ち上がった。


 特徴的な八重歯をみせる獣人族の若者は青年とも少年とも見える。高貴な衣服を纏った姿は、飼い主のエゴで服を着せられたペットのようにも映りいじらしい。


「ボクへの挨拶がまだ済んでないにゃ!」


 可愛らしい容姿とは裏腹に高圧的な態度がしめされ、非礼を詫びろとばかりに目つきを吊り上げていた。


「ボクの名はコモドにゃ。マダム・アスカの所有者にあってギルド長にゃ。以後、覚えておくにゃ!」


「はっ、大変失礼致しました。今日着いたばかりの新参者の故、御無礼をお許しくださいませ」



 ──なんかムカつくヤツだな。

 所有者だって? 偉そうに。てめぇはどうせ、年上熟女好きのマセガキだろーがっ!



 波風が立たないよう本音を押し殺し謙虚に振る舞った。


「まっ、分かればいいにゃ。もう下がってよいにゃ!」



 武器と所有者。マダム・アスカとコモド。

 こいつらは飼い主とペットの関係性なのか? 例外なく二人はちちくり合っているはず。美魔女とマセガキ。バター犬ならぬバター猫か? いけすかねぇヤツだ。



「ボクちゃんよくできましたね。立派ですよ」


 視線を上げるとマダム・アスカがコモドの頭をなでなでとさすっていた。

 コモドは甘えるようにグリグリその身をなすりつけている。



「ママ、もっとヨシヨシしてにゃ〜〜」



 ──ママ!?

 名のある武器は、所有者の好みの女性となって現れる。


 こいつ、ただのマザコンじゃねーか!

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