21話
「銀髪のねーちゃんがまだ修復できないとなると、勇者のあんちゃんの身が心配だな……」
「勇者さんが聖剣エクスカリバーの鞘を手に入れたという情報はいずれ広まります。貴族がまた動くとしても不思議ではありません」
サモアさんとバロウさんの会話に、背筋がゾクリとした。双剣の暗殺者。ヤツの顔が脳裏をよぎる。
「スバールバル・グランデ。貴族御用達、双剣の暗殺者か……」
サモアさんが怪訝な顔を浮かべた。
「双剣の暗殺者なんて私がボコボコにしてやりますからっ!」
カリバーが左右の拳を前後に連打すると、豊満な胸がゆさゆさ揺れる。それを横目に俺は頭を抱えた。
エクスもカリバーも危機管理能力ゼロ。超プラス思考というか、ど天然というか。まあ、これも俺の女性の趣味なんだろうから仕方ないのだが……。
「どうだい? 金髪のねーちゃん。勇者のあんちゃんは今、非常に危険な立場にいる。そこでなんだが、銀髪のねーちゃんの修復を早めてみては……」
「だめぇっ〜〜! だめだめっ! 絶対にだめぇっ〜〜!」
サモアさんが話し終える前に、カリバーはそう言って俺を抱きしめる。柔らかな感触がむぎゅっと俺の顔に押し付けられた。
男三人の視線が複雑に交錯し沈黙が流れる。俺はカリバーの胸に顔を埋めながら深呼吸にも似たため息を吐いた。
「……勇者のあんちゃんは束縛する女性がタイプなのか?」
「はいっ?」
首を傾げてはみたもののサモアさんの言葉に思い当たる節があった。
たしかにエクスもやたらと束縛した。
彼女らが俺の理想だとしたら、俺の深層心理は、愛されることに飢えている?
「世界で一番モテる男」なのに?
前世では彼女すらいなかった。彼女という存在に憧れていた。だが、この世界では違う。幼い頃から女性の愛をたっぷりと受けてきた。愛? あれは本当に愛だったのだろうか? オスとメスの欲望。それが愛なのだろうか?
両親の記憶があまりない。物心がつく前に生き別れになった。俺は両親に捨てられた。
──家族から愛されることに飢えていた。
俺は、サモアさんが言うように、束縛されるほどに、愛されたい男だったのだ。
「……フッ」
バロウさんの鼻から小さな息が抜けるのを見逃さなかった。
あ、あっーーーー!
今、笑ったでしょ? あんたが笑うなっ!
あんたは、人の女性の趣味を笑える立場にいないでしょーがっ! この超ロリコンやろうがっ!
「いえいえ、そういう意味ではありませんよ」
胸中を察したバロウさんが必死に否定する。
「でしたら用心棒を雇うのはどうかなと思いまして……」
自分の身に火の粉が飛びかかるのを防ぐように、バロウさんは続けた。
「用心棒か! そいつは名案だな!」
それにサモアさんも賛同した。
「……用心棒?」
もし今、ヤツに襲われればカリバーもエクスと同じ運命を辿ることになる。俺の命も危ういかもしれない。腕利きの用心棒を雇っておくことは得策だ。
俺は弾力のある胸の谷間から身を乗り出し、勢いよくテーブルに手をついた。
「双剣の暗殺者にも討ち勝てるほどの用心棒……、誰かいますかね?」
「だったら適任者が一人いる。俺が力を貸してやりてぇーところだが、貴族が動いている以上、騎士団が表立つのは具合が悪いからな……、めんぼくねぇ」
サモアさんが彫りの深いシワを眉間に寄せてから、カッと目を見開いた。
「適任者の名は、戦斧神セイライ。組織に属することを嫌う風来の、変わり者だ」
──変わり者?
その肩書きが、僅かな痼りを残し、──彼は、やってきた。




