概念幼女
そうなるとフォーサイシアルートの復讐云々の話も本当かどうか怪しい。
その行動が暴走の魔法陣のせいなら、二人の父親である教皇がネイビーを上手く使って事件を起こしていたのではないだろうか。
なんせネイビーに魔法陣を刻んだのは教皇だ。
ネイビーが嘘を付いている可能性はない、と思う。嘘をつくには余りにも純粋すぎる。
孤児院の子で言えば、魔力が強すぎて地下室に閉じ込められ、外を知らずに親の言う事が全てだった子と同じ目をしている。
状況から見て、ネイビーもそうなのだろう。
ひょっとしたら、そこら辺がネイビールートで明かされていたのかも知れない。
しかし妹がネイビールートを遊んでいる間、私は就活地獄に苦しんでいたため、いつも以上に妹の話を右から左に聞き流していた。
なのでネイビーの事はルートボスであることしか覚えていなかった。本人を見て、ようやく隠しキャラである事を思い出したくらいだ。
正直言って思い入れのあるキャラではない。
でも、こんな現状を見て見捨てられるわけがない。
「私、これから外に出ようと思うんだけど、一緒に来る?」
ネイビーは目を瞬かせた。
まるで、初めてそんな事を言われたとばかりに。
しかし彼は困ったような顔で首を横に振った。
「わるいこ、ここ、いる」
「そう。じゃあ悪い子はここに置いておいて、ネイビーは一緒に行かない?」
「......ネイビー?」
彼は不思議そうに私を見つめる。
しまった。
『ネイビー』って名前を先行して知ってたから思わず言ってしまったけど、彼は『名前がない』って言ってたんだった。
おそらくルートが進むと出てくる名前なんだろう。
しかし、口に出してしまった物は仕方ない。
どうにか言い訳を考えて口にする。
「貴方の名前。だからネイビーは名前のない悪い子じゃなくていいの。気に入らないなら撤回するよ」
苦しい言い訳だったけど、ネイビーは純粋なお陰か素直に私の話を飲み込んで、目を輝かせる。
しかしその輝きもすぐに失われ、目を逸らされた。
「だめ。フォー、怒られる」
「フォー......フォーサイシア?」
私の言葉にネイビーが頷く。
自分が怒られるのを恐れるより、双子の弟を気遣っている。
やっぱり恨んでなんかない。
「今ここから出ないと、フォーサイシアと殺し合......喧嘩になっちゃうよ」
「え......」
フォーサイシアルートがそうだった。
現在、主人公のアイリスがフォーサイシアと何処まで好感度を上げたかわからないが、私のような邪魔がないなら予定通りにルートが進んでいる事は確かだ。
そうしたら双子で争う事になる。
フォーサイシアがネイビーをどう思っているか知らないが、ネイビーはちゃんとフォーサイシアを思いやっている。
だから、何とか争うのを回避させたい。
そうすれば双子で争わずに済むし、革命は起きないし、私はシナリオに巻き込まれずに済む。
最後に自分の保身が入る汚い大人で悪いな。
ネイビーは私の言葉に唸って考えこんだ後に、泣きそうな顔になった。
「フォー、喧嘩、やだ。どうする? どうすれば?」
どうやら私の言葉を信じてくれたらしい。普通、なんの根拠もなく、こんな事を言っても信じない。
やっぱり純粋過ぎるほど純粋だ。
本当の事を言っているのに、騙しているような罪悪感を覚えてしまう。
「まずはここを出て、フォーサイシアに会いに行こう。ネイビーも会いたいでしょ?」
「会いたい!」
ぱっと顔を明るくするネイビー。
段々子どもみたいで可愛く見えてきてしまった。
見た目は年上の自分より背の高い男性なんだけども。
なるほど、これが妹が言っていた『概念幼女』か。
「それなら私と一緒に行こう。何かあったら、私が守るから」
「うん。ネイビー、一緒!」
私の差し出した手に、何の疑いもなく笑顔で手を重ねてくる。
よし、決めた。
もしフォーサイシアが何かしら今回の件に関与してたり、ネイビーを何とも思ってなかった場合は、ネイビーは私が保護しよう。
今回は私が自主的にシナリオを破って、彼を連れ出した責任がある。
ちゃんと面倒見るって言えば、院長も許してくれるはずだ。
幼女は保護しなければならない。