悪い子だれだ
フォーサイシアルートのルートボス。それはフォーサイシアの双子の兄である。
フォーサイシアと違って黒髪黒目で生まれた兄は冷遇されており、父や弟に復讐するために各地で他人の魔力を喰らい力を強大化させる。
フォーサイシアと主人公のアイリスは兄を止めるために各地を巡り、ついでにその地の問題も解決していく。そして最終的に暴走した兄と戦う事になる。
このルートだとクロッカス殿下と共闘出来たりするのでシナリオの人気が高い......と妹が言っていた。
でもラスボスは変わらず殿下である。
なんでだろう。シナリオの内容を知らないので、戦う流れが全くわからない。
とにかく、そんな流れでフォーサイシアルートを終わらせ、再度フォーサイシアルートを選ぶと、とある選択肢で隠しキャラのルートが現れる。
それがルートボスだったフォーサイシアの双子の兄ーーーネイビールートである。
つまり、私の目の前にいるフォーサイシアのそっくりさんは、ルートボスの双子の兄であるネイビーなのだろう。
しかし、彼は最初に襲い掛かってきた以外は幼子のようなきょとんとした顔で私を見上げている。
とても復讐を求めているように思えない。
とりあえず対話が出来そうなので話しかけてみることにした。
「さっきはなんで襲い掛かってきたの? いきなり私が現れたから敵だと思った?」
「? 知らない。体、痛い。なんで?」
不思議そうに首を傾げて、ネイビーは自分の体に触れて痛みに眉を顰める。
嘘をついているように思えない。
襲い掛かってきたのは記憶にない上に、私に殴られたことすら覚えてないって事?
私が殴った事を覚えてないからこそ、敵意がないのかも知れない。
それはそれとして、あまりにも幼げな様子に段々と殴った事による罪悪感を覚えてしまう。
「ちょっと見せて。肋骨が折れてると思うけど、他に怪我してるかもしれない」
「うん」
背中を思い切り打ってたし、咄嗟に思い切り殴ったので肋骨が折れて内臓に刺さってたら大変だ。
一応警戒しつつネイビーの近くにしゃがむ。
私はこんなに警戒してるのに、ネイビーはやっぱり警戒心がない。
そのことを疑問に思いつつ彼の体を見て、あることに気が付いた。
彼の左胸、ボロボロの衣服の下に魔法陣が刻まれていた。
しかも塗料なんかではなく、肌に直接刻み込まれる形で。
「……これ、どうしたの?」
私が左胸を指さすと、ネイビーは無邪気に笑った。
「とうさま」
「え?」
「わるいこ、あかし」
そう言って自分を指さす。
父親にやられたって事?
虐待では???
肌に残る形で魔法陣を刻むなんて、想像するだけで痛い。
しかもこの魔法陣、暴走の魔法陣では?
動物に描くと狂暴化するので、闘牛や闘犬に描いて戦わせる国もあるって院長に習ったことがある。
それを人間に?
さっきネイビーが急に襲い掛かってきたのはこれが原因ではないだろうか。
今はなぜか魔法陣の効力が失われているみたいだ。
そういえば、私がちょうど殴ったのがこの辺りだったような気がする。
『魔法陣は繊細な物だから、少しでも線を間違えたり線が消えたりすると効力を発揮しなくなるんだよ。使い勝手悪いよね』
院長がそう言っていたから、もしかしたら殴った事で些細な傷がついて魔法陣が機能しなくなったのかもしれない。