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魔法陣

 金庫を開けると、中には紙の束が入っていた。金庫に入れるほど重要な書類なんだろうか。

 その紙束をよく見ようと手を伸ばして、紙に触れる前に手を止めた。

 一番上の紙。これ見よがしに魔法陣が描いてある。


 こんなのに引っかかる奴、いないだろ。


 しかもこれ、転移の魔法陣だ。前に院長に習った。

 触ってたら、別の場所に瞬時に飛ばされてただろう。


 ひょっとして『恋革』だと、アイリスか攻略対象が触れて別行動になるフラグだったりする?


 いや、まさかな。

 とにかく、魔法陣には触れないように慎重に紙の束を取り出す。

 魔法陣が描かれた紙の下は、文章が書かれた普通の紙が続いていた。

 手紙のやり取りみたいだけど、内容がきな臭い。

 ぱっと見は物の受け渡しとか、それに伴う金銭のやり取りが書かれてる。


 でも手紙の内容を見るに、これは『人』を売り買いしているのでは?


 そんな記載が満載だ。

 これは手紙を隠しておくより処分した方がよかったんじゃなかろうか。

 高額なやり取りだから、相手方とトラブルになった時の証拠にしているのかな。

 こんな建物にこんな手紙があると思われないから隠してるんだろうけど。

 もし泥棒がこの建物を見ても、まず入ろうとは思わないし、入っても廃墟みたいな内装なら金目の物はないと思って出て行くだろう。

 偶然にも金庫を見つけて開けられても、中が紙束だけなら盗られる可能性は低い。


 何故なら、この国は文字を読める人が少ないから。


 学校なんて物はない。

 王都に住む金持ちや商人なら、私的な塾や親の教育で読めるようになる。

 貴族は家庭教師が付いて専門の教育をされる。

 でもそれ以外は文字を習う事もなく生きていく。王都以外で国を支える国民の大半がそうだろう。

 この建物の下にいる人達も、この手紙が読めないでメッセンジャーだけしてる可能性もある。

 手紙にはやり取りの相手の名前が書いてないし、下の階の人達が捕まっても、トカゲの尻尾切りの要領で使い捨てにするんじゃないかな。


 そう考えると、この魔法陣が唯一の手掛かりになるかもしれない。


 転移先がわかれば、自ずと関わっている人間に近づけるだろう。

 でもそれはモブ君やグレイ隊長に任せよう。

 魔法陣の解析なんて、プロに任せた方がいい。軍には解析出来る人がいるだろう。

 私が何かして、魔法陣に影響を与えたら解析も出来なくなるかもしれない。

 それは避けたい。責任も取れない。

 今はモブ君に目を瞑ってもらって、勝手にお邪魔した体である。

 この手紙と魔法陣があれば、とりあえずはいいだろう。

 下の階の人達が来る前に、私は再び窓から出る事にする。

 入った時と同様にサッシに手をかけてから窓を閉め、外から鍵をかける。

 そしてそのまま飛び降りた。

 三階くらいの高さなら『身体強化』すれば楽勝である。

 音もなく着地して、路地に隠れて見ていたモブ君の元に駆け寄る。


「お待たせ!」

「いや、全然待ってないよ......じゃなくて大丈夫だった?」


 心配そうに尋ねてくるモブ君に早く話したくて、紙の束を差し出しながら口を開く。


「それがーーー」


 その瞬間、世界が回った。


 短時間で2回も聴力を強化したせいだろう。しかも2回目は時間も長かった。

 そのせいで、私はモブ君の方に倒れ込んでーーー


 自分の持っていた紙の束に頭を突っ込んだ。


 ちなみに、モブ君に見せる為に魔法陣が描かれた紙を一番上にしていた。


 結果は言うまでもない。


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