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不法侵入

 いくらあまり知らない子だったとはいえ、孤児院の子が一人いなくなっているのだ。

 その子が連れ去られていた場合、あまり時間をかけているとどんな状況に置かれているかもわからないし、最悪死んでしまう可能性がある。

 モブ君たちが見張っている間にすぐ動きがあればいいけど、そんなに都合よく相手方が動くとは限らない。

 孤児院の子以外にも被害が出ているなら、早めに解決した方がいい。


「確実な証拠があれば隊も動けると思うけど……どうするの?」


 訝し気にモブ君が尋ねてくる。


「ちょっと行って証拠を探してくるから、モブ君は見なかったフリしてくれる?」

「不法侵入する気? ダメだよ、危なすぎるって」


 モブ君が慌てて私の肩を掴んで止める。

 私だって危ないことはしたくない。

 でも今回は子どもの命がかかっているので話が別だ。

 孤児院の子は家族も同然なので、その子と親しいか親しくないか、新しく来たか昔からの付き合いかとかは関係ない。

 皆、健やかに過ごしてほしい。

 私はゲーム主人公じゃないから、出来る事は限られている。

 アイリスだったら、さっきのストリート・チルドレンと仲良くなって皆を救って、その後の生活までなんとかできるようにしようとするんだろう。そして実際に成功する。

 私はそこまで出来る力もないから、手の届く範囲は出来る限り守りたいと思う。

 勿論、無暗に危ない橋は渡らないけど。

 自分も大事なので。


「大丈夫。中の人数とどこにいるか把握してから行くから」

「どうやって?」


 モブ君は困惑顔だ。

 でもそんなに難しいことじゃない。


「耳だけ強化して中の様子を探ってから行くから、人がいたら大体の場所はわかるよ。ちょっと静かにしててね」


 言いながらモブ君の唇に人差し指を当てて黙らせた後に、『身体強化』で聴力だけ最大限強化する。

 集中して、建物の中を探る。

 どれだけ気配を消していても、呼吸音と心臓の音は消せない。

 三階建ての建物で、中の人数は三人。

 一階に一人、二階に二人。三階は誰もいない。

 場所も大体把握してから、『身体強化』を解除する。


 その途端、世界が回る。


「サクラちゃん!?」


 モブ君が慌てて背中を支えてくれた。どうやらふらついてしまったらしい。


「ありがとう。でも大丈夫……。ちょっと気持ち悪くなっただけ……」


 頬を両手で叩いて気合を入れなおす。

 聴力を限界まで強化すると、いらない他の音まで拾ってしまう。過敏になっている状態で、それは毒に等しい。

 そうでなくても強化を終えると今みたいに眩暈が起こる。車酔いに似ているから、音を拾いすぎて三半規管がおかしくなるんだろう。

 だから院長からは多用しないように言われている。


 院長は今と同じ方法で一瞬で人の配置がわかるから、負担が少なく済むのだろう。いつかあのレベルになりたい。


「三階には誰もいないみたいだから行ってくるよ。早くしないと移動してくるかもしれない」

「あ、待……」


 言うが早いか、私はモブ君の手を離れて建物の壁を音もなく駆け上がる。

 三階まで到着すると、窓のサッシに手をかけて中の様子を盗み見る。

 聞き取った通り、中には誰もいない。

 しかし当然と言えば当然だけど、窓には鍵がかかっている。


 これも魔法が使えると簡単だ。物を動かす要領で、鍵を動かせばいい。


 そうして難なく窓を開いて中に侵入することができた。これも全部院長が教えてくれたことだ。


 ひょっとして『王の影』の情報収集って、この方法を使ってるのか……?


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