孤児院の子ども
教皇様が動いていたり、フォーサイシアが主人公のアイリスに接触したりとシナリオは動いているのかもしれないが、私の日々は変わらない。
いつも通り仕事をして、グレイ隊長に特訓に付き合ってもらって、たまに殿下やアンバーとお話しする。
なぜかクロッカス殿下とのお茶会が日常に含まれるようになっているけど、どことなく殿下が嬉しそうなので断るに断れない。そもそも王族の誘いを断れないけど。
この前の話し合いも結局ただのお茶会になってた気がする。
教皇様の事は口実で、私と話したかっただけだったりして。
そんなわけないか。自意識過剰で死にたくなる。
院長には懐中時計を贈ったけど、施設の人たちには何もお礼が出来ていない。
なので中心街で売っていた洒落たお菓子の詰め合わせを、施設の職員と子供たち用で分けて持っていった。
今回も買い物にジェードが付いてきてくれて、とても助かった。
ジェードも一緒に孤児院に行かないかと誘ったけど、仕事があるからと断られてしまった。
ジェードは『王の影』になる際に色々あったから、ひょっとしたら孤児院に行くのが辛いのかもしれない。
そんなことを孤児院に着いてから思ってしまった。
思いやりが足りなくてすまない、ジェード。今度また、話を聞こう。
そんなわけで久しぶりに孤児院に返ってきた。お菓子はささやかな物だったけど、皆は喜んでくれた。
良かった。
そのまま半日、皆に囲まれて過ごしている間にあることに気が付いた。
私が孤児院を出る前に新しく入った子が一人足りない気がする。
人と視線を合わせられず、おどおどと周囲を気にする子だった。
気になって話を聞くと、昨日から行方がわからなくなっているらしい。
昨日は孤児院の子たちが揃って週に一度、教会に行って祈りを捧げる日だ。
その帰りから姿が見えなくなっているらしい。
孤児院では自由に過ごす時間は限られている。規則正しい生活をしないといけないし、勉強も魔法の訓練もしないといけない。勉強をサボっても罰則はないが、その分掃除・洗濯等の手伝いを要求される。
それに馴染めなかったり、家族が恋しかったりすると、ひっそり出て行こうとする子もいる。大抵、家族のもとに辿り着けなかったり、元々捨てられているので家族に拒否されることもある。後は出て行っても結局、食べるものに困ってすぐ戻ってくるけど、帰ってこない子もいる。
施設の人も近くは探してくれるらしいけど、本当に探しているかは定かではない。
なんせ孤児なので。いなくなっても困ることはない。むしろ一人分、養うお金が浮く。だから去る者は追わない主義なのだろう。
警察なんて組織もないし、軍に言っても余程のお金持ちじゃないと本腰を入れて探してくれない。もし人攫い等の事件に巻き込まれていたとしても、証拠がなければ動いてくれない。
だから私は孤児院の皆に、用事がない時は出来るだけ外に出ないように言っている。
この孤児院の子たちは魔法が使えるから利用価値が高い。その分、狙われる。
魔法が使える分有利ではあるが所詮子供だ。
甘い言葉で騙されたり、体力のなさを逆手に取られたりして攫われる危険性がある。
その点、この孤児院の中は安全だ。
なんせ、院長が結界を張っている。
一度、孤児院に強盗団が侵入しようとしてきたことがあったが、一歩足を踏み入れた直後に爆音とともに半死半生にさせられていた。
結界って侵入を拒むだけで、爆撃機能が付いてるのは聞いたことがないんだけど、院長なので自己流にアレンジしていたのだろう。
おかげで孤児院を出入りするのが少し怖くなったのは秘密だ。誤作動なんてしないと思うけど。
そんなわけであまり関わっていない子とはいえ、急にいなくなったのは少し心配だ。
施設の人たちはそんなに探していないだろうし、私も少し探してみようかな。