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ざまぁ系でよくある話

 フラックスは気を取り直したように咳払いをして、話を続ける。


「そもそも結婚するのも大変だったんじゃないですか。貴族でも有力者でもない、ただの村娘だったんでしょう?」


 フラックスの言う事は最もだ。

 しかも国の第一王子。側室生まれでも結婚相手はうるさく言われそうなものだ。


「いや? 貴族やリリーと親しかった者たちはうるさかったが、特に王家で反対する者はいなかったぞ」

「意外ですね」


 私は思わず呟いてしまった。

 御伽噺だとシンデレラみたいにハッピーエンドでお終いだけど、現実はそうもいかない。この世界はゲームの世界だけども、ハッピーエンドの後も人生は続いていく。

 王族との婚姻なんてしたら滅多な事では別れられないし、味方も夫しかいない状態で貴族社会に飛び込むとか、私には無理だ。

 それを差し引いても、良識ある王なら止めそうなものだけど。

 私の疑問にクロッカス殿下の視線が向けられる。


「そもそも前提として、私の母は身分が低く、父上に見染められて側室になったんだ」

「なるほど。だから殿下の結婚にも理解が―――」

「違うぞ」


 納得しかけたらクロッカス殿下に遮られた。


「私の母が側室になる際、父上は長年お妃教育をされていた婚約者に向かって『婚約を破棄する』とか『側室になるなら娶ってやる』と言って揉めに揉めてな。結局は母が側室になることで折り合いがついた。が、結果として正室にはなったが痛くプライドを傷つけられたせいか、王妃様から私の印象は最悪だった」


 それはそう。

 なんだかざまぁ系でよく見る話だ。


「王妃様は自分の息子を王にしたいだろう。私が有力者の娘と結婚でもされたら困るから、妨害されていたのか貴族達から婚約話など来なかったな」

「王侯貴族の婚約は家同士の契約でまりますからね」


「でも、殿下の父上からは可愛がられたでしょう? 最愛の人の息子なんだから」

「いや、私を産んだ時に母が亡くなってな。最愛の人を殺した忌まわしい息子として視界に入るのも避けられていた」


 家庭環境が最悪じゃないか。


「ついでに私はこの黒髪だ。『ウィステリアが世界を黒く染めた』という逸話から、黒は忌むべきものという概念が我が国は強いからな。ただでさえ当たりが強かった。その上に私はよく命に係わる事故に巻き込まれていた。お陰で『呪われた王子』と言われていた」

「その事故って……本当に事故だったんですか?」


 城で命が脅かされる事故なんて早々起きるものじゃないだろう。

 今までの話を総合すると嫌な予感しかしない。


「さぁ? 今となっては事故なのか私の命を狙って故意に起こされたものかわからない」


 私の問いかけにもクロッカス殿下の声はどこまでも淡々としている。

 己の不幸を嘆くでもなく、ただ事実を述べているだけのように見える。

 まるで他人事だ。


「そんな幼少期に私と仲良くしてくれたのは、シアンとアネモネだけだ。アネモネの実家は元々、身分の低い母の後見になってくれていた。母が亡くなって、私の後見になってくれたのもアネモネの実家だ。彼女とは本当の兄妹のように過ごしていたんだ」


 クロッカス殿下がフラックスを見やる。

 そこには確かな温かさがあった。

 殿下にとってはそれだけがいい思い出なのかもしれない。


「それで母上の事を、守ろうと……」

「結局守ってやれなかったがな。私が望むことはいつも叶わない」


 独り言のように呟いて、殿下は首を振る。

 切り替えるように足を組みなおすと、殿下は私の方を見る。


「すまない、脱線したな。だから私がリリーと結婚しようと特に反対されなかった。父上は私を疎んでいたし、王妃様は貴族でもなんでもない平民と結婚して、自分の息子が王になるのに有利になればそれでよかったのだろう。更に王家に妖精の加護持ちがいれば、貴族や教会に利用されずに済む。色々な思惑が重なって許可された事だ」


 結婚の話なのに暗い話題しか出なかったんだけど、どうなってるんだ。

 普通、もう少しハッピーは雰囲気にならない?


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