鈍感系主人公
「リリー様というと、殿下の亡くなった奥方でしたね」
フラックスが尋ねると、側近二人を呆れた顔で見ていたクロッカス殿下がこちらに視線を戻す。
「ああ。リリーは積極的に慈善活動に参加していた。教皇も若い頃は自分の足で民の為に活動していたから、仲が良かったんだ」
「奥方が他の男と仲良くしていて、止めなかったんですか?」
フラックスが批難がましい目線を向ける。
貴族として真面目というか、貞操概念が厳しそうだもんな。フラックスは。
対してクロッカス殿下は対して表情を変えずに答えた。
「その頃、彼女は妻でもなく私の騎士だったからな。悪行を働くならともかく、善行を止めるわけがないだろう。恋仲でもなかったからな。リリーが夫にしたい者がいたら、後見になって送り出すつもりだった」
殿下の口調は淡々としている。思ったよりドライな関係だったのかな。
リリーさんって平民だったらしいし、王族と結婚するなんて御伽話みたいな大恋愛の末だと思ったんだけど、違ったのかな。
そんな事を考えていたら、グレイ隊長に肩を叩かれた。
「あんな事言ってるけど、側から見てお互いに相思相愛だったからな」
「そうですよ。奥様からのアピールに気づかないどころか、ご自分の気持ちにも気づかない鈍感なだけです」
アンバーまで補足してくるけど、何でそれを私に言うんだ?
クロッカス殿下は側近二人の言葉にやや不服そうな顔をした。
「そこまで鈍くないぞ」
「嘘を言わないでください」
アンバーがバッサリ殿下の言葉を切り捨てる。
「でも相手に好意があれば、少しくらい気づいたり意識したりするものですよね。私は経験ないので、わからないんですけど」
少女漫画とかでもよくある。鈍感主人公系じゃなければ。
そう思って言葉にしたのに、何故かグレイ隊長やアンバーのみならず、フラックスまで私に何か言いたげな視線を向けた。
「え、なんですか? 私、変な事言いました?」
「おかしな事は言っていないと思うぞ」
クロッカス殿下のお墨付きが出たのに、三人の眼差しは変わらないままだ。
むしろ今度は殿下まで、その視線の矛先を向けられている。
なんでだ。
「嬢ちゃんも苦労しそうだな......」
最終的にはグレイ隊長に同情したような目を向けられた。
なんなんだ、一体。