教皇
グレイ隊長にはもう少し特訓に付き合ってもらいたかったが、休める時に休むのも大事だと言われて今日は解散となった。
残念。
そうして帰ろうとした時、訓練場を見ている人物に気が付いた。
ふくよかな体型の穏やかな笑顔の似合うおじ様だ。オールバックの金髪が良く似合っている。
司祭が着るような白いローブを着用している事から教会関係者なのだろう。
それはいい。
問題はそのおじ様の隣にいる人物である。
それは20歳手前くらいの長身の若者だった。司祭が着るような白いローブに、長い金髪が風に揺れてキラキラと煌めいている。この世の全てを憂いるような表情は、訓練場を見ているようで見ていない。細い手首は今にも折れてしまいそうなほど繊細で、その人の儚さを存分に引き立てている。
フォーサイシア。
このゲームの攻略対象の一人である。
なんでいるんだ!?
呆然としていたら、先に引き上げようとしたグレイ隊長も私の視線の先に気が付いたようだ。
グレイ隊長は一瞬顔を引きつらせたものの、すぐ気を取り直したように笑顔を作って司祭二人に話しかけに行く。
「教皇猊下。どうしてこのような所に?」
「リリー様を思い出して思わずここに足を運んでしまいました。貴方がいらっしゃるとは偶然ですな。これも女神のお導きでしょう」
教皇様!? この穏やかそうなおじ様が!?
教会のお偉方の顔なんて、見たことがなかったから知らなかったわ。
写真がないって不便。
「昔も、貴方はここでリリー様と手合わせをなさっていましたな。懐かしいものです。そちらの方は貴方の部下ですかな?」
教皇の視線が私に向けられる。
やめてほしい。注目しないでくれ。空気として扱ってほしい。
「ええ、そうです」
グレイ隊長が私に目線を向けて答える。
OK、話を合わせろってことね。
私も無言で頷く。
それで満足したのか、教皇の視線はグレイ隊長に戻った。
「貴方もリリー様と親しかった分、現状に思うところもあるでしょう。悩みがありましたらどうぞ、教会にいらしてください。歓迎いたします」
「……ええ、何かありましたら是非に」
「おっと、そろそろ約束があるので失礼します。ついつい長話をしてしまいました。歳は取りたくないものですな。では」
教皇はゆったりとした足取りでその場を後にする。
フォーサイシアはこちらに頭を下げて、教皇の後に続いて去っていった。
教皇は兎も角、フォーサイシアはこちらの事が視界にも入ってなかったみたいだ。
良かった、変にフラグが立たなくて。
司祭二人の姿が見えなくなってからようやく肩の力を抜く。
ほっとしてグレイ隊長を見上げると、彼はまだ二人の去った方を睨みつけていた。
「俺にあんな声掛けして、クロッカス殿下が留守の時に女王陛下と面会なんて、なに企んでるんだか」
ぼそりと呟かれたその言葉は明確な敵意を孕んでいた。
ひょっとして、フォーサイシアルート始まってる……?
『教皇』は本来『聖下』が正しいみたいですが、カッコいいので『猊下』にしてます。