コントロールが命
「嬢ちゃんの攻撃は『一撃で仕留める』気概に溢れてるから、俺だって一発でも当たったらヤバかったって。最初から本気でいって正解だった」
「本気なのは伝わってきましたけど、魔法も使ってこなかったじゃないですか。その分手加減してくれてたんですよね?」
私の言葉にグレイ隊長は頭を掻いて溜息をつく。
「剣は兎も角、魔法は苦手なんだ。そもそも魔法なんて使ったら、嬢ちゃんは跳ね返してくるだろう?」
「相手にそのまま魔法を跳ね返すのはコントロールが難しくて、落ち着いた状況じゃないと私は出来ませんよ。軌道を逸らすのが精一杯です」
これも『物を動かす』という初級中の初級魔法の応用である。
そもそも軌道を逸らしても、味方に当たらないようにしないといけない。
そう考えるとアネモネの時みたいに複数の氷が飛んできたり、乱戦状態だと使うのが怖い。相手の魔法に干渉するのだ。失敗する可能性もある。
そうなると、避けたほうが速い。
院長と違って練度がないので、どうしても当って怪我をしそうな時に使うくらいに留めている。
院長ならアネモネの氷がいくら飛んできても、全部本人に跳ね返せただろう。
やっぱり私には修行が足りない。
「いや……そもそも他人の魔法に干渉して軌道を逸らすなんて出来ないはずなんだけど……嬢ちゃんもやっぱり出来るのかよ……」
グレイ隊長は頭を抱えて唸っているので、思わず首を傾げてしまった。
「え、そうなんですか? 院長は普通にやってましたよ」
「いいか、嬢ちゃん。あいつを基準にするな」
真顔で言われてしまった。
困ったな。院長以外の魔法なんて孤児院の子たちくらいしか見たことないから、基準が院長で固定されてたんだけど。
私が腕を組んで唸っていると、グレイ隊長が安心させるように笑って肩を叩いてきた。
「俺がスカウトするくらいには強いってことだ。自信持てよ。俺で良ければ、あいつが戻ってくるまで特訓に付き合うから」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
これは僥倖。
少しくらい強くなって院長をビックリさせたい。『一対一で話し合いましょう』って約束してるので、全力で殴りに行こうと思う。
グレイ隊長が付き合ってくれるなら安心だ。色々な意味で。
なんせグレイ隊長はロータスルートのルートボスだ。ロータスは私がチュートリアルでフラグを折ってしまったし、これ以上関わることはないだろう。
妹が予言?してくれたフォーサイシアルートにグレイ隊長は関わっていなかったので、そこも安心できる要素だ。
「正直、嬢ちゃんにすぐ追い抜かれそうで怖いけどな」
お世辞でもそう言ってくれるなんて、グレイ隊長はやっぱり優しい。
なんでこんな人が独り身なんだ。世の中、おかしい。