主従
そもそもクロッカス殿下も懐かしそうに笑っている。
ちょっとは気にしようよ。命を狙われたんでしょ。
呆れていたら、グレイ隊長が溜息をついた。
「そもそも殿下はアンバーが『王の影』だって知ってるからな」
「え!?」
思わず大声をあげてしまった。
グレイ隊長が知っているぐらいだ。殿下も当然知ってるんだろう。
そんな私を見て、クロッカス殿下は苦笑している。
「私が間違ったら殺してでも止めてくれるんだろう? 上に立つ者として一番ありがたい存在だ。アンバーは昔も今も私に意見を述べてくれる。信頼できる部下だ」
「お任せください。殿下がとち狂ってそのような馬鹿な事しでかそうとしたら殺してさしあげます。……呪いか毒か別人にでもならない限りあり得ないと思っていますが」
全部知った上での主従関係だったのか。
それは信頼度が高いのも頷けるけど、どっちもメンタル図太いな……。
「もし本当に殿下の事を殺そうとしたら、その前に俺がお前を殺してやるよ。俺は何があっても殿下の味方だからな」
「それは困りましたね。グレイの事は『オトモダチ』だと思っているので、ちゃんと手加減して生かしておいてあげますよ」
「お前のそういう所が嫌いなんだよ」
「事実を申し上げただけですが。私の方がグレイより強いですし」
「あぁ? 試してみるか?」
言いながらグレイ隊長はすでに剣に手をかけている。一方、アンバーは挑発めいた余裕の笑みだ。
怖い怖い怖い。
助けを求めるようにクロッカス殿下に視線を向けると、まるで子犬がじゃれ合ってる映像を見ているような微笑ましそうな顔で二人を見ていた。
「心配するな。二人とも仲が良いからじゃれているだけだ。お前たち、遊んでないでそろそろ行くぞ」
「はい」
「仲良くないし、遊んでもないです!」
素直に頷くアンバーと切れ気味に答えるグレイ隊長。
ひょっとして、いつもこんな感じなんだろうか。
殿下の目線が二人から私に移る。
まるで慈しむかのようにほほ笑まれて、そのまま流れるように手を差し出された。
王子様みたいだ。王子様なんだけど。
「時間を取らせたな。さぁ、行こう」
私にとってはここからが本番だった。
胃が痛い。