特殊メイク
エステのフルコースが終わって、ようやく解放されると思ったらそんなことはなかった。
次に案内されたのはドレスルームだ。
高そうなドレスと化粧品、鏡まで並んでいてまるでお店みたいである。
どれを使いたいか使用人さんに聞かれたけども、私には選べないです。どれも高そうで。一番安い物をお願いしたい。
しかしこれは誰の私物なんだ? 殿下? でも殿下の周りの女性ってアネモネしか知らないし、その彼女も精神を病んでてこんなドレスは必要じゃない。
疑問を浮かべていたら、ドレスの中にこの間着たゴスロリ服を見つけてしまった。
まさかとは思うが、院長の私物か?
最終的に着て行くドレスはメイドさんたちが決めてくれて助かった。確実に私が選ぶよりセンスがいい。私には選べない。
こういう可愛いドレスでワーキャーテンションが上がるタイプじゃなくてすまないな。
むしろ破るのが怖くて着せてもらった直後から脱ぎたい気持ちしかない。
ドレスを着せられて陰鬱な表情で鏡の前で座っていると、再びアンバーが部屋の中に入ってきた。
「まだ何かあるんですか?」
「当たり前です。化粧の一つしなくてどうするんですか」
そう言ってお洒落で高そうな化粧品をアンバーが手に取った。
「えっ。アンバーがやるの!?」
「ええ。ご安心ください。私は何でも出来ますので」
偉く自信満々に言い切られた。確かにナチュラルメイク万歳な私より上手そうではある。
結果から言うと、整形かってくらい可愛くなった。
今世の私は元々釣り目気味で、第一印象でちょっと怖そうに見えるところが見事に緩和されている。
いやむしろ特殊メイクか。『王の影』だし、別人になりすますとか仕事上ありそうな気がする。
おまけにいつもと違うヘアアレンジまでしてくれている。
技術力の高さに感嘆するしかない。『何でも出来る』は本当なのかもしれない。
「ところで元々付けてたヘアピンはどこに?」
「……こんな安物、捨てようと思ったのですが」
「ダメです」
貴族や王族を相手しているアンバーからしたら安物かもしれないが、私にとってはジェードから貰った大事な宝物である。
そもそも人の物を勝手に捨てるな。
憤慨しながらアンバーの手からピンを奪い返すと、明らかに面白くなさそうな顔をされた。
私を介してジェードを虐められないことが不満なのかもしれない。
本当に性格が終わってる奴だな。