ゲームで通行人のモブに話しかけるタイプ
その場のノリで先輩風を吹かせたせいか、その後もフラックスの事を手伝うことになってしまった。『先生』って呼ばれると孤児院の子たちを思い出してちょっと手を貸してしまう私も甘いんだけどさ。
アンバーが教えに来ないのも悪いんだよ。
ただ、フラックスの場合一週間もしないうちに私の手伝いなんて必要なくなった。
流石、攻略対象。ハイスペック。
ただし私は使えるモブだと思ったのか、相変わらずフラックスの手伝いに呼ばれる。お前の秘書でも小間使いでもないんだけど。
さり気なく他の人に代わってもらおうとしたけど、全力で断られてしまった。
なんでだ。フラックスは貴族だけど、クロッカス殿下と和解してから大分まともになったぞ。
みんな揃って『馬に蹴られたくないから……』って断るんだけど、どういうことだ。馬に蹴られる予報でも出てるのか?
そんな疑問を抱えながら廊下を歩いていると、モブ君に呼び止められた。
「サクラちゃん! 今日、暇だったりする?」
「モブ君。ごめん、今日は予定があって......」
そう、今日はクロッカス殿下との食事会なので。
胃が痛い。
何を着て行けばいいんだ。そこから疑問なんだが。
「そっか......」
モブ君は残念そうだ。申し訳ない。
私もこんな胃の痛い思いをしないでモブ君と遊びたかった。
「普段は暇なんだけどね。モブ君と話す時はなんかタイミングが悪いというか......。この間も話の途中だったのに、ジェードが割って入ってきちゃったし」
あの時は切羽詰まったような真剣な顔だったけど、今はそんな雰囲気は見られない。いつものモブ君だ。
「あの時の話って、結局なんだったの?」
私の疑問に、モブ君を柔らかな笑みを浮かべて内緒話をするように私に近づいて囁いた。
「二人だけでの時に話したいから、秘密」
「何を話してるんだ?」
割って入ってきたのはフラックスだ。
なんで皆、モブ君との会話を邪魔するの?
モブ同士の会話なんて話しかけたり盗み聞きしたりしていいと思ってんのか?
ゲームじゃないんだぞ。ゲームの世界だけど。
ムッとしてフラックスを睨む。
しかし私が口を開く前に、モブ君がフラックスに礼を取りながら話し出す。
「私的な事なので、お聞かせする内容でもありません。ご容赦を」
「例の噂の件で、彼女に絡んでるわけではないのか?」
「噂って『悪女』の件ですか? 知ってはいますけど、サクラちゃんはそんな事しませんよ。わざわざ聞いたりしません」
「モブ君……!」
敢えて聞いてこなかったって事!? 紳士……!
前世も含めて今のが一番キュンときたわ。
私が中身30代の枯子じゃなければ恋に落ちるところだった。
「そもそも、その噂を聞いて一番に絡んできたのはフラックス様では?」
私の冷めた目線にフラックスがぐっと唸って黙る。
まさにお前が言うな案件。
この話題は形勢不利と判断したのか、フラックスは2・3度咳払いをすると話を変えてきた。
「それよりもサクラ。今日は殿下と用事があるんだろ。俺も殿下に用があるから一緒に来い」
なんでフラックスが知ってるんだ。
私は話してないぞ。