トラブル吸引体質
「あいつが干渉している以上、お前に危害を加える者などいないだろう。ああ、私といるのが嫌なら正直に言ってくれ。この話はなしにしよう」
そう話すクロッカス殿下の表情には、気のせいか陰りが見えた。私は慌てて首を横に振る。
「いえ、嫌というわけでは」
「では、決まりですね」
アンバーのにこやかな言葉で、さくっと殿下との食事会が決定してしまった。
おのれ、院長。余計なことを殿下に話したのを恨みますよ。
話はこれで終わりかと思ったら、殿下は来客用のソファに腰掛けて私に手招きする。
「立ち話もなんだな。こちらへおいで。もう少し話をしよう」
あれ、これ話が長くなるパターンでは?
辞退しようにもすでにアンバーが紅茶淹れてスタンバってるので、大人しく殿下の対面に座る。
早急に院長のマナー講習を思い出さないと。胃がキリキリしてきた。
そんな私をアンバーは面白そうに眺めながら話しかけてきた。
「殿下以外にもフラックス様やジェードとも噂になっていますし、いっそのこと私やグレイとの噂も流して悪女感を高めてみては?」
「アンバー」
「冗談です」
私が嫌がる前に殿下のひと睨みで撤回してくれたけど、本当に冗談か?
アンバーはクロッカス殿下に睨まれようが、笑顔で紅茶を私と殿下に出してくれる。
本当に神経図太いな。
クロッカス殿下は一つ息を吐くと、私に視線を移す。
「私も若いころからよく厄介ごとに巻き込まれてな。穏便に解決しているのになぜか私が悪いことにされたりするのがよくある。噂なんてそんなものだ。あまり気にするな」
「殿下は少しくらい気にしてください」
グレイ隊長が呆れたように口を挟んでくる。
確かにクロッカス殿下の性格を見るに、アネモネの噂以外は歪曲されて広められてそうだよな。
続けてアンバーも眼鏡を抑えながらやれやれと言った顔をする。
「そもそもご自分からトラブルに突っ込んでいくじゃないですか」
「それは違う。トラブルが私に突っ込んでくるんだ」
珍しくアンバーの笑顔が引きつった気がする。
ついでにアンバーの視線が一度私に向いてから、再度殿下に向けられる。
殿下と同じこと言ったからって、こっちにまで非難の眼差しを向けないでほしい。
「アネモネ様の件は?」
「あれは私が一番に気づいたからな。下手に他の者に任せて何かあったら、非難されるのは私だけではなくアネモネもだ」
「グレイ隊長やアンバーに任せたらダメだったんですか?」
ずっと疑問に思っていたことを口に出すと、殿下は側近二人に視線を向けた。
「この二人に任せると、アネモネが殺されてしまうからな」
「そうですね」
「当然です」
アンバーはともかくとして、グレイ隊長まで当然って顔して答えた。
物騒。そういえばこの人たち、悪役陣営だったわ。
「婚姻した当初はブルーアシード侯爵家の権威を使うためにも必要でしたが、今は役にも立たないで空想の世界に生きているだけ。亡くなっても問題ないでしょう?」
アンバーが淡々と続ける。
この人、フラックスもアネモネも嫌いなのでは?
「そういう問題ではない。私にとっては血がつながらなくても妹のようなものだ。例えどうなろうとも、守ってやりたかった」
クロッカス殿下は遠くを見ながら悲しそうな眼をする。
なるほど、私にとってジェードみたいなものか。
私もジェードがアネモネと同じ状態になっても、きっと守ってあげたいと思うだろうから。
「その気持ち、よくわかります」
「そうか。気が合うな」
クロッカス殿下が嬉しそうに笑う。
最初の緊張はどこへやら、お互い和やかにほほ笑み合っていたらアンバーがクロッカス殿下に引きつった笑みを向けた。
「殿下。後でお話があります」
「なんだ? 今聞くぞ」
「後で結構です」
「似ちゃいけないところが似てるんだよな……」
グレイ隊長は行儀悪くソファの背もたれにもたれかかるように後ろから肘をついて、呆れたように私を見つめてくる。
どこら辺が誰に似てるんですか?




