呼び出し
フラックスが同じ職場になったけれども、私の仕事は特に変わらない。
変わった事と言えば、アンバーがフラックスの書類をチェックしにたびたび来るくらい。
私が入ったばかりの時もそうだったけど。
今もアンバーがフラックスの書類をパラパラめくって目を通しーーー
「最初から全部やり直してください」
笑顔で書類を突き返されている所だ。
気のせいか、アンバーはフラックスに当たりがキツイ気がする。
私の時は、もう少し丁寧で優しかったぞ。
「またか......」
フラックスはめちゃくちゃ悔しそうな顔をしている。
これ、初めてじゃなくて何回も繰り返してるからな。普通、心折れるぞ。厳しすぎやしないか。
「これでは殿下が目を通すまでもありません。殿下はお忙しいので、無駄な事に時間を費やす暇はないのです。文句は私のチェックを通ってから言ってください」
フラックスをばっさり切り捨ててアンバーは踵を返す。
貴族に対してもあの態度なんだから、本当に怖い物知らずだな。殿下が権力握ってる今ならいいけど、殿下に何かあったらアンバーは何かしら報復されそうだ。
そんな事を思いながらアンバーを眺めていたら、背中に目でもあるように彼がこちらを振り向く。パチリと目が合った。
「サクラさん、少々よろしいですか?」
笑顔のお呼び出しである。
なんだろう。今日は呼び出されるような事、何もしてないぞ。
疑問に思いながらアンバーについていくと、そのまま廊下に出て、城の中を歩いていく。
最初は黙ってついて行っていたが、アンバーが中々要件を切り出してこないので、耐えきれずに私から話かけた。
「何の用ですか?」
「私は特に用事はありませんよ。強いて言えば、せっかく私が注意したのにフラックス様の件に首を突っ込んだ事ですね」
用もないのに呼び出されたのか。しかも小言付き。
少しムッとして言い返す。
「あれは私のせいじゃないです。フラックス様というトラブルの方が私に突っ込んで来ただけですよ」
そう答えたら眼鏡を押さえて深いため息をつかれた。
なんでだ。
「用がないなら戻っていいですか?」
私がジト目で尋ねると、アンバーは笑顔で首を横に振った。
「私は用がないと言いましたけど、他に用がある方がいるのでついて来てください」
アンバーにそんな用件頼めるのって、クロッカス殿下しかいないのでは?
そんな私の考え通り、アンバーに連れてこられたのは殿下の執務室だった。
こうして呼び出されると、余計に噂になりそうなんだけど殿下は大丈夫なんだろうか。