フラグは他人が折ってくることもある
「そこで何してるの?」
モブ君が何か言いかけた時、突如声をかけられた。
振り返ると、怖い顔をしたジェードが背後に立っていた。
「ビックリした……。ジェード、いつからそこに?」
全く気配がなかったぞ。流石『王の影』。
「サクラが連れていかれるの見たから……。心配でついてきたんだ」
「普通に声かけてくれれば良かったのに。心配性なんだから」
そう言うと、ジェードは少し気まずそうに目を逸らした。
「ごめんね、モブ君。話、続けて大丈夫だよ」
改めてモブ君の方に向き直ると、モブ君はなぜか口元を手で押さえていた。前もジェードと会った時、同じようにしてた気がするんだけど、なんだろう。癖なのかな。
「いや……。大した話じゃないから、また今度でいいよ。ごめんね、時間取って」
「え? でも」
「いいから。そっちの子の事を優先してあげて。俺は後でいいから……。それじゃ!」
言いながらもモブ君はじりじりと後ろに下がり、最終的に逃げるように去っていった。
ポカンとその背を見送ってしまったが、すぐに我に返る。
「ちょっと。ジェードが来たからモブ君が言いづらくなっちゃったじゃん。何か言いたいことがあるみたいだったのに」
私みたいに何かに巻き込まれて助けを求めたかったのかもしれない。わざわざ二人きりで話したいとなると結構大事な話っぽかったのに。
少し怒りながらジェードに視線を向けると、ジェードはむっとした顔になった。
「それでまた変なことに巻き込まれたらどうするの? サクラはもっと警戒心持った方がいいよ。昨日だって危ない目にあったんでしょ」
「う……。確かにモブ君が助けを求めてきたら全力で助けようとは思ってたけども」
「ほらー! 僕が言うのもなんだけど、もっと自分を大事にして!」
逆に怒られてしまった。
年下なのにジェードの方がしっかりしている。
それがちょっぴり悔しくなって言い訳がましく言い返す。
「モブ君は友達だから別! 昨日のは不可抗力! 私だって、なるべく危ない目にはあいたくないから! 何でもかんでも首突っ込んだりしないよ!」
「本当……?」
「本当本当」
ジェードに注意されてたのにフラックスの件に巻き込まれたからか、疑いの眼差しを向けられてしまった。
信用がない。
しかしモブ君がいなくなってしまったので、ここにいても仕方ない。
ひとまず訓練場から出ようとジェードに声をかけようとした時、ジェードが何事か呟いた。
「……まぁ告白でもなんでも邪魔するつもりだったけど」
「何か言った?」
「なんでもない」
ジェードはにっこりとあざといほど可愛い笑みを浮かべる。年上女性もノックアウト間違いなしの可愛さだ。
どこでそんな技覚えてくるんだ。
血は繋がってないけど、姉の立場としてジェードの将来が少し心配だ。