いつも通り?
疲れきっていた為か、そのままベッドで寝落ちしてしまい、気がついたら翌朝だった。
寝過ごさなくて良かった。今日も仕事なのに。
昨日の空腹を引きずったまま体を起こすと、机の上には朝食が用意されていた。
朝食の横には書き置きが置いてある。
『昨日は大変だったみたいだね。ボクが用意したから安心して食べて。
ーーーホワイトより』
院長? また不法侵入したんですか?? 不在の間に入られるのも怖いんですけど、寝てる間に入られるのはもっと怖いです。
でもお腹は空いているし、目の前のご飯は美味しそうな匂いで誘ってくるので、抗えずに食べた。
予想通り美味しかった。
ありがとう、院長。でも次会った時は不法侵入の件について抗議を含めて殴ります。
食べ終わってから、改めてクロッカス殿下からいただいた指輪を見る。
殿下にとっては思い出の指輪だろう。なんで私にくれたのか知らないが、売ったり捨てたりするのは論外だ。やっぱり返してとか言われた時が怖い。
しかし、ここに置いておくのは怖すぎる。見ての通り不法侵入されまくってるので。
そうなると身に着けておくのが一番か。チェーンにでも通して首から下げておくのが良いんだろうけど、生憎私の部屋にそんな洒落た物はない。
一先ず今日は指に嵌めておこう。モブの手元なんて誰も見てないだろうし大丈夫だろう。
指に通してみると、ピッタリハマるのは薬指だった。
結婚指輪だからって、そんな偶然ある?
仕方ないので右手の薬指に嵌めて出勤した。
流石に左手につけて行くほど夢見がちではない。
そんなこんなで、朝は予想外の事は起きたがそれ以外は特に変わった所もなく一日が過ぎていく。
普通に出勤して普通に仕事をして何事もなく終わる。
こんなのでいいんだよ、こんなので。
そしていざ帰ろうという時に、廊下で声をかけられた。
「サクラちゃん」
「モブ君?」
振り返れば、いつも癒し系のモブ君がそこにいた。
いつもは安心するようなホワホワとした笑みを浮かべているのに、今日はなんだか落ち着かないというか、緊張しているような顔だ。
「どうしたの? 何かあった?」
「いや...特に何もないんだけどさ。サクラちゃんに二人きりで話があるんだ。ちょっと来てくれないかな」
躊躇いがちに話すモブ君に、素直に頷く。
他の人ならいざ知らず、モブ君だからな。呼び出されても警戒心も湧かない。
モブ君に連れてこられたのは、モブ君みたいな黒い軍服の兵士さんたちが訓練で使う訓練場の隅だ。
丁度木の影になっていて、人目につかず目立たない場所である。
呼び出したのがモブ君じゃなかったら、不意打ちか決闘を疑う所だった。
モブ君はどう切り出すか迷うように、口を開いたり閉じたりして言い出すのを躊躇っている。
なんだろう。モブ君には色々助けてもらってるし、何かあったなら聞いてあげたいな。
急かすことなく黙って待っていると、モブ君が決意したように顔を上げた。
「サクラちゃん。信じてくれないかもしれないんだけど、実は俺ーーー」