再会
国家権力の前には抵抗しても無駄なので、大人しく軍服の男たちについていく。
途中、アイリスやロータス、兵士さんとは分かれて馬車に乗せられ、隊長と呼ばれていた男性―—―ラスボスの側近と向かい合わせに座らされた。
「俺はグレイ。苗字もないからわかると思うが、貴族でもない。ただの軍人だ。そんなに緊張しなくていいからな」
無理です。
馬車でラスボスの側近と二人きりにされて、対面でそんなこと言われても緊張しないわけがない。
気分は取調室で尋問を受ける容疑者である。
「嬢ちゃんから聞きたいのはあの二人と出会った時の事だ。何があったか、話してくれるか?」
やっぱりアイリスとロータスの件だったか。
二人に倒された人たちも黒い軍服だったし、この人の部下だったのかもしれない。
下手な嘘を言って疑われるのも嫌なので、ここは素直に経緯を喋っておく。
流石にあの二人が誰かは知らないふりをしておくけど。
この世界は写真がないから、女王陛下の顔なんて絵か米粒みたいな距離を遠目で見るかのどちらかだ。
名前で呼び合ってたけど気づいてませんよ~って顔しておいた。
「そうか、なるほどな。巻き込んで悪かったな。ウチの馬鹿どもにも言い聞かせて置く」
男性―――グレイは溜息をついた。
どうやら納得してもらえたようだ。
「あの、それでいつ帰していただけるんでしょうか。孤児院の皆も心配してると思いますので……」
「それは俺からは何とも。安心しろよ、大人しくしていれば悪いようにはしないさ」
そんな楽しそうな笑顔で言われても嫌な予感しかしないんですが。
私、これからどんな目に合うんだ……。
己の未来を悲観しかけた時、突然馬車の扉が開いた。
突然開いた扉から乗り込んできたのは白いローブの人物だ。フードを被って顔は見えない。
グレイが驚いたように剣に手を置いたくらいなので、予想外の人物なのだろう。
しかし、私はこの怪しげな人物に覚えがある。
突然の乱入者は馬車の扉を閉めてから、ようやく顔を隠していたフードを取った。
「院長……!」
「サクラ、無事で良かった」
雪のように白い髪、10年前から変わらない驚異の童顔を誇る院長が優しく微笑みかけてくる。
うっかり安心して泣きそうになったら、隣に腰掛けて抱きしめてくれた。
安定の優しさである。
院長は忙しいのか、週に一回顔が見れればいい方だ。ただ、来たときは必ず魔法の使い方を私に教えてくれる。なので院長が来ない間に練習して、次来た時に成果を見せて、新しく教えてもらう……という繰り返しである。
孤児院の皆は院長を見たことがない人がほとんどだ。
私は多分、魔法の件で仲間意識なのか同情されているのか、贔屓にしてもらっているだと思う。
でも皆と違って属性魔法使えないんだから、これくらい許してほしい。
「随分危ないことをしたみたいだね。無茶なことはしたらいけないよ。何かあったら孤児院の皆も、もちろんボクも悲しいからね」
「はい、すみませんでした……」
背中をポンポンと優しく叩かれてから身体を離される。
院長の顔を見ればめちゃくちゃ悲しそうな顔をしていた。
凄く胸が痛む……。ちゃんと反省します。
「お前が出てくるなんてどういう了見だ」
突然冷ややかな声が間に割って入ってきた。
見れば先ほどまでの笑顔はどこへやら、グレイが冷めたような表情で院長を見ていた。
対する院長もグレイに向ける顔は先ほどの優しい笑顔を落としたように無表情に変わる。
「この子はボクが預かった子だ。保護者として駆けつけるのは当たり前だろう? 余計なことを言ったらグレイでも容赦しないよ」
馬車の中で急激に温度が下がったような気がした。