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秘められていた過去

 水鏡が揺れる。

 映し出される映像が切り替わった。

 今度は荘厳な玉座の間だ。『恋革』のラスボス戦と同じ場所なので、この国の城の中なのだろう。

 そこにただ一人、シアン侯爵が立っていた。

 静けさだけがあるその場所に、荒々しく飛び込んで来たのはクロッカス殿下だ。先程の映像よりも数年後なのだろうか、髪が少し伸びている。

 クロッカス殿下はシアン侯爵の姿を捉えて愕然とした表情を浮かべるが、すぐに歯を食いしばるように彼を睨み付ける。

 クロッカス殿下の後ろには、アンバーが付き従っている。当然ながら今より若い。いつになく冷たい目をした彼の体には血が点々と付着しているが、動きに支障がなさそうなので返り血なのだろう。


「シアン! 何故こんな馬鹿な真似をした!?」


 前の映像とは反対に、クロッカス殿下がシアン侯爵に荒々しく足音を立てて近づく。

 シアン侯爵は無表情でそれを眺めながら、口を開いた。


「お前を王にするためだ」

「......は、あ?」


 クロッカス殿下の歩みが止まる。呆然としてシアン侯爵の顔を数秒見つめた後に、震える唇で言葉を絞り出した。


「何を......言ってるんだ......。騎士団を巻き込んで、おとうとも王太后も皆殺して、オレに王になれと!? 誰がそんなこと認めるか! 民も貴族も納得しない! 何よりオレはそんな物望まない!」


 怒りの滲んだ顔でシアン侯爵を睨むクロッカス殿下。

 これはもしかして、10年前の反乱の時の映像なのか......?


「そうだな。呪われたお前はいつも悪者で、悪評を押し付けられて生きてきた。今回も下手を打てばそうなるだろう」

「だったら......!」

「だから、お前はあくを殺して王になればいい。そうすればお前は反乱分子から国を救った英雄として王になれる。お前はそうなるように立ち回れる能力があるだろう?」


 シアン侯爵の言葉に、クロッカス殿下は今度こそ絶句した。


「シアン......そんな、それではアネモネやフラックスはどうなる。逆賊の妻子の汚名を着せられ、どんな目に遭うか......」

「どうでもいい」


 あっさりと。本当に興味なさげにシアン侯爵は切り捨てた。


「妻なんて今の地位を手に入れるために必要そうだから娶っただけだ。子どもはその付属品にすぎない。......昔から、俺の友はお前だけだ」


 完全に動きを停止してしまったクロッカス殿下に、今度はシアン侯爵が近付いていく。


「そもそもお前は『雪の妖精』に選ばれたのに、それを隠していた。ウィステリアと、その子である初代国王陛下しか選ばれたことがない、何よりの王たる証明だ。それを放棄して安寧と過ごしているのはただの怠惰だぞ」

「違う! それは勘違いだ。『雪の妖精』の加護があるのは妻と娘だけだ。オレは関係ないんだ!」

「あの女の加護なんて、お前に比べれば話にもならない。帝国との戦の時、『雪の妖精』が直接力を貸していたんだろう? そうでなければ、あれだけの勝利を得られなかったはずだ」

「......あれは......ウィステリアの危機に、力を貸してくれただけで......」


 クロッカス殿下の瞳が初めて、迷うようにシアン侯爵から視線を逸らす。

 更に近づこうとするシアン侯爵の前に、アンバーが立ち塞がった。そこでようやく、シアン侯爵の歩みが止まる。


「お前も王に相応しいのが誰か、わかっているんだろう」


 シアン侯爵の問いに、アンバーは答えない。ただクロッカス殿下を守るように背に庇い、冷たい目でシアン侯爵を見つめるだけだ。

 それを見て、シアン侯爵はおかしそうに笑みを作る。


「軟禁された後も今も、『雪の妖精』は変わらず付き従っているんだろう? そんな破格の力があるなら、お前は己の才覚と妖精の力で王になれたのに......あの女に会って、お前は変わってしまった」


 そこでクロッカス殿下は、はっとしたようにシアン侯爵を見る。


「シアン......彼女を......オレの妻をどうした」


 一瞬の静けさ。シアン侯爵が目を瞑る。


「殺した」


 その言葉の前に、クロッカス殿下の闇の魔術が立ち上る。


「殿下......!」


 アンバーが止める前に、うねる魔術がシアン侯爵をーーー


 そこで、映像は消えた。

 クロッカス殿下が水鏡から手を離したからだ。


「もう、いいだろう。......だから、話たくなかったんだ」


 沈痛な面持ちでクロッカス殿下が呟く。


 これはフラックスに言えないよな......。


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