表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/372

家宝

 私が心の中で声援を送っている間に応接間に到着した。

 ここは以前、私がクロッカス殿下と初めて会った場所だ。もう一度来るなんて思いもよらなかった。

 フラックスが扉をノックして扉を開ける。

 礼を取ってから顔を上げれば、そこには初めて会った時と同じく豪勢な椅子に座ったクロッカス殿下がいた。

 その椅子、デフォルトか何かなのか?

 殿下の横にはグレイ隊長が立っている。私を見つめるその顔は『また巻き込まれたのか……』と哀れみとも呆れとも取れる表情だ。

 私だって好きで巻き込まれたわけじゃない。顔だけでも遺憾の意を表明しておく。

 一方で殿下とフラックスの間には重たい沈黙が流れている。

 そんな二人を見てグレイ隊長は大げさに溜息をついた。


「殿下、話さないなら戻りましょうよ。俺にもアンバーにも何も言わずに、いつの間にか城から抜け出して出歩くなんて俺は心配してたんですから。アンバーはキレてましたけど」

「お前たちに言えば止められるとわかっていたからな」

「当たり前でしょう。言ってくれれば俺たちが止めに行ったのに。御身を大事にしてください」


 二人の会話を聞いて、フラックスははっと目を見開く。


「母上に何かあったと気づいて駆けつけて来たのですか……?」


 フラックスの問いに、殿下は一度口を閉ざしてから渋々といったように口を開いた。


「元々アネモネのいた部屋には、限られた者しか出入りできないように私の魔法で施錠がされていた。防犯の意味もあるが、アネモネが他人を傷つけないためでもあった。……それが『外』から破られた。お前たちが何かしたわけではないな?」

「違います。俺たちが屋敷に来た時には母上はすでに部屋の外に出ていました」


 クロッカス殿下本人がかけた魔法だから、離れてても破られたのがわかったって事か。

 私とフラックスが屋敷に来る前に、誰かがアネモネの部屋の結界を破ったって事? 誰が何のために? しかもラスボスのかけた魔法だぞ。どうやって解いたんだ。

 私たちはアネモネ以外誰も見ていないが、元々広い屋敷だ。犯人がいても私たちと鉢合わせないだろう。

 クロッカス殿下も私たちを疑っているわけではないようだ。状況を聞いて一つ頷く。

 そしてフラックスに再び視線を投げかけた。


「それとアネモネの持っていた鏡。『真実の水鏡』で間違いないな」

「はい」


 殿下とフラックスはわかっているようだが、こちらは『真実の水鏡』とやらを知らないんだよな。

 首を傾げていると、横にいるフラックスがそれに気づいたのか説明してくれた。


「この鏡はブルーアシード家の家宝だ。10年前、父上が亡くなってから行方不明になっていたんだ」


 フラックスが大事そうに懐から取り出したのは、アネモネが持っていた手鏡だ。

 よく見れば、銀の繊細な装飾が施されている。鏡の部分はただの板ではなく、水面のように波紋を描いて揺れている。水でも張ってあるようなのに、縦にしても横にしても水滴一つ落ちたりはしない。不思議な鏡だ。 

 結界を破って家宝の鏡をアネモネに渡した? アネモネを暴走させるなら結界を解くだけで十分そうなのに、なんでそんなことしたのか謎だ。

 しかもクロッカス殿下の別邸ともなれば警備はそれなりにしっかりしているだろう。わざわざ人目を忍んで入って、盗みでもなく家宝を返すなんておかしな話だ。

 そもそも何がしたかったのか謎だけど。アネモネを暴走させてクロッカス殿下をおびき出すにしても、騒ぎの隙をついて殿下を襲ってきたりもしない。ブルーアシード家に恨みがある人間がアネモネやフラックスを脅かそうとしたんだとしても、アネモネを暴走させる前に傷つけたりしたわけでもなさそうだし。


 10年前の事も疑問が多いのに、更に謎が増えてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ