王子様仕様
そう思いながらガタガタ震えていた私に、ふわりと何かがかけられた。
クロッカス殿下が上着を被せてくれたらしい。
めっちゃいい匂いがする。夜のベッドとかで漂ってきそうな大人の色気全開の匂いだ。
「おいで」
そのまま優しく手を取られて、促されるままに歩き出す。ここで王族の手を振り払う勇気はない。
しかし殿下、顔が魔王なのに仕様が王子様なの何? いや、王子様なんだけど、脳がバグる。
「殿下……!」
「後にしろ」
フラックスの声を後ろに、クロッカス殿下はどんどん進んでいく。
辿り着いたのはシャワールームだ。凄い。私の今使ってる部屋より大きい。
「好きに使え。着替えは持ってこさせるから、着ていた服は置いておけばいい」
そう言うと、殿下は手を離して扉を閉めようとする。その手を咄嗟に掴んでしまった。
「……どうした?」
僅かに目を見張るクロッカス殿下。私も自分の行動にビックリした。王族相手に何やってるんだ。
でも、このまま行かせたらもう会えない気がする。私なんかは当然として、先ほどの態度からしてフラックスも面会を拒絶するだろう。
やってしまったものは仕方ない。私は勇気をふり絞って口を開いた。
「話したいことがあるんです……。フラックス様も、きっとそれを望まれてます」
「……」
沈黙が痛い。
流石に怒るよな。私なんて無関係だし。
でも短い間でもフラックスの怒りも悲しみも間近で見てしまった。振り回されたし、色々巻き込まれたけど、少しくらい協力してあげたい。今世の私には親はいないけど、もう会えない親を思う気持ちは理解できる。前世の親には多分もう会えないから。
「……わかった。待っている」
じっと顔を見つめる私に、殿下は静かに目を閉じて答えた。その顔は何を考えているかわからない。
ただ、その答えだけ残すと今度こそ私の手を振りほどいて出て行ってしまった。
本当に待っていてくれるのだろうか。わからないけど、そろそろ寒さで手の震えが止まらなくなってきたのでそちらを優先することにする。
悩むのは後からでも出来る。
濡れた服を脱ごうとして、ふと手に持っている物に気づいた。
あ、クロッカス殿下から渡された指輪を返してない。
寒すぎて頭からすっぽり抜けていた。
よく見れば、シンプルな銀の指輪に繊細な細工と雪のような宝石が散りばめられている。これ、ダイヤモンドじゃないか?
こんな物をポンと他人に渡せるなんて、王族は違うな……。