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順番が違う

 アネモネが倒れると、周囲の氷も徐々に解けていく。

 クロッカス殿下が正面玄関を派手に壊して入ってきたからね。風通しが良くなって温度も急激に上がっていく。温度差で風邪引きそう。


「母上……!」


 フラックスがアネモネに駆け寄って抱き起こす。アネモネはそれでも起きない。安らかな寝息を立てている。一先ずは大丈夫そうだ。

 あの緊迫した状況の中、数秒で正確にこの威力の睡眠付与が出来るとは恐れ入る。普通、数秒では酔ったように足がもつれるとか思考が動かなくなるくらいの威力しかない。時間をかけて作った薬や術式を込めてあれば別だけど。

 感心していたら突然肩を掴まれた。

 驚いて顔を上げると、そこにはクロッカス殿下が心配そうに私を眺めていた。


「大丈夫か。怪我はないか?」

「あ、はい。お陰様で……」

「良かった。……怖い思いをさせてすまない。あれが最善だと思ったんだ」


 私に怪我がないとしるとほっとした様子だったが、すぐに大変申し訳なさそうな顔になる。

 私のようなモブにまで気を遣ってくれて大変ありがたいんだけど、そこは幼馴染兼嫁のアネモネの所に行くところじゃないのか? なんで私を優先した???


「私は本当に大丈夫です! 普段から鍛えてるので! お気遣いありがとうございます。その、それより……」


 ペコペコ頭を下げながら、ちらりとフラックスの方を見る。


 凄い睨んでるんだけど。怖っ。

 違うんだよ。本当に今日二回目に会っただけなんだよ。殿下は多分、フラックスに母親を任せた方がいいって判断しただけだって。もしくは単純にフラックスと顔を合わせるのが気まずくて、こっちに来ただけだよ。


 そう言いたいけど言えない。事実なのに言い訳がましく聞こえて火に油を注ぎそうなのと、クロッカス殿下に対して不敬になりそうなので。

 殿下も私の視線に釣られてフラックスとアネモネを見やる。一瞬、悲しみに顔を曇らせたように見えたが、すぐに冷静な顔を取り戻した。


「アネモネはしばらく目覚めないだろう。これだけ魔力を消費したんだ、身体への負担も相当だ。すぐに癒師ヒーラーを手配する。それまで被害のなかった部屋で休んでいろ」


 フラックスにそう言うと、踵を返そうとする。


「お待ちください! 父上の事で聞きたいことがあるんです!」

「お前に話すことはなにもない。前にも言ったはずだ」


 随分と冷たい、突き放すような言い方だ。その顔には何の感情も滲んでいない。仮面でも被っているようだ。

 私の時とは随分違う。まるで―――


「ぶぇっっくしょぃ!!」


 シリアスなやり取りの中、おっさんみたいなクシャミをしたのは誰か。


 私です。本当に申し訳ない。


 だってクロッカス殿下は攻撃は全部防いでくれたけど、攻撃の余波で飛び散る細かい氷までは防げなかったからさ。そういうのが服にも髪にも付いてて、温度が急上昇したことで溶けてきてるんだよね。

 服とか小雨にでも当たったのかと思うぐらいの濡れ加減だよ。大丈夫かな、色々透けてない? 自分だとよくわかんないんだよな。

 ついでに冷えた服のせいで身体の震えが止まらない。周りの温度が上がっても、服についてたのは元は氷だったから凄く冷たい。

 殿下とフラックスの話し合いを邪魔する気はなかったんだけど、私のクシャミのせいで二人の視線が私に集中する。


 あ、やっば。鼻水垂れてきた。


 幸いフラックスは私を見てすぐに視線を逸らしてくれたから、そんな痴態を見せなくて済んだ。でも殿下にはバッチリ目撃された。

 恥ずかしい。穴があったら入りたい。

 しかし目線を逸らすほど酷い有様だったのか。お貴族のお坊ちゃまにに汚いもの見せて申し訳ない。貴族のお嬢様なんて着飾って綺麗どころも多いだろうし、こんなびしょ濡れのモブなんて見たくないよな。


 まさか服が透けてたから視線逸らしたわけじゃないだろ?


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