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アネモネ

 クロッカス殿下が現れると、アネモネの視線は彼一人に向けられた。


「あ、ああ、あああああああ。どうしてどうしてドウシテ……!」


 頭を抱え、血を吐くような叫びと共に、拳大の霰がこちらに向かって降り注ぐ。

 だが、展開された障壁はびくともしない。


「アネモネ……」


 一方、アネモネを見つめるクロッカス殿下の目は静かで悲しみに満ちている。

 呆然とそれを眺めていたフラックスが我に返ったように叫んだ。


「どうして貴方がここに……!?」

「その話は後だ。このまま魔力を放出し続ければ、アネモネの命が危ない。恐らく5分と持たないぞ」


 冷静に返答しながらも、クロッカス殿下は胸元から何かを取り出した。

 多分、指輪か?

 クロッカス殿下が一言、二言呟くと、その指輪に魔力が収縮され術式が刻まれる。

 そして私とフラックスを見比べ、私に向けて指輪を差し出した。

 

「サクラ。すまないがお前にこの指輪を託す。強力な睡眠効果付与した。をこれをアネモネに当ててほしい」

「え、私ですか!?」

「フラックスでは無理だ。私が攻撃するとアネモネを殺してしまう」


 ラスボス強すぎた。そういえばこの人の攻撃って闇属性で、当たるとデバフと持続ダメージ付与が付いてくるんだった。その攻撃の威力と持続ダメージで殺しかねないってか。

 強すぎるのも問題だなぁ!


「でも私、さっき失敗して……」


 先ほどの失敗が蘇る。 

 アネモネの氷の鎧は顕在だし、今度は霰やらツララやらが吹き荒れている中を走り抜けないといけない。

 そう考えると私では厳しいと思う。院長なら出来ると思うけど。


「アネモネの攻撃は全て私が弾く。お前には傷一つ付けさせない」


 見上げれば、穏やかで優しい海のような深い藍色の瞳と目が合った。


「あいつに教わったんだろう? ―――お前なら出来る」

『―――君なら出来る』


 なぜか、その顔が院長と重なった。見た目が正反対なのに、同じ優しさと信頼の眼差しを向けてくれている。


 なんでクロッカス殿下はぽっと出の私なんかをこんな評価してるんだ? 院長は何を殿下に吹き込んだんだ???


「俺からも頼む。母上を助けてくれ! 俺は……力不足だ……」


 フラックスが力なく呟くと頭を下げる。

 王族と貴族にここまでされたら行くしかないな。断った方が怖い。


「わかりましたよ! やるだけやってみます!」


 やけくそで叫んでから屈んで両手を地面につけ、クラウチングスタートが出来るような姿勢を取る。

 『身体強化』で最大限加速して行ってやる。


「行きます!」


 自分を奮い立たせるように叫んで走り出す。

 障壁を出るとすぐにツララが襲って―――こない。

 クロッカス殿下が私の動きに合わせてツララどころか霰すらも完璧に弾いてくれている。障壁を維持しながらこんなこと出来るのか。魔力コントロールが神がかっている。

 それがわかれば真正面からアネモネに突撃出来る。

 加速を重ねて、ただ真っ直ぐに泣き叫ぶ彼女を見つめて。アネモネは逃げることも避けることもしない。壊れたように意味のない言葉を叫ぶだけだ。

 私は勢いのまま、右の拳でアネモネの鎧に叩き込む。

 今度は手加減しない。

 胴体の部分に当たった一撃は、綺麗にその部分の鎧を粉砕する。そのまま右手に持っていた指輪をアネモネに押し付けた。

 途端にアネモネの動きが止まる。それまで周囲に渦巻いていたツララも砕けて消えていく。

 アネモネはそのままあどけない笑みを浮かべて、力なく地面に倒れた。


 良かった……。誰も死ななくて……!


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