参戦
しかし私が失敗したせいで、とてつもなくまずいことになった。一番の問題はアネモネが一階に辿り着いてしまったということ。
ゲームではムービーが終了して戦闘が始まってしまう。
手鏡を見つめていたアネモネがゆるゆると顔を上げる。大きな瞳がこちらを捕らえた。そして少女のような笑みを浮かべて口を開く。
「シアン様……。そこにいらしたのですね」
「……っ、母上。俺は父上ではありません!」
フラックスが辛そうな顔で答える。しかしアネモネはフラックスの言葉を聞いているように思えない。独り言をブツブツと呟いている。
シアン、というのはフラックスの父親の名前のようだ。ひょっとしてフラックスは母親に会うたびに間違われるのだろうか。それは辛い。
しかし自分の世界に入っているなら好都合。モブらしく目立たずに、もう一回死角から殴ろうと動き出そうとした瞬間、アネモネと私の目が合った。
勘がいいな。
「あらあら、シアン様。そちらの女性は…… ど な た ?」
あ~ヤンデレ顔が良く似合う~!
途端にアネモネは狂ったような笑い声を上げる。それと同時に、彼女の周りにツララのように鋭い氷がいくつも形成される。
ルートボス戦で見た攻撃だ。
フラックスのシールドは一回でも当たったらアウトなのに、十はくだらない数がこちらに構えられる。
私は多分避けられるけど、フラックスは無理だ。しかもフラックスはジェードと違って私より背が高いし、抱えて避けても絶対にどこかしら命中する。
初期レベルでルートボスなんて相手にしたら一発でHP0では? 死ぬのでは?
私の思考をよそに、アネモネからツララが放たれる。
ええい、女は度胸!
覚悟を決めてフラックスの腕を掴んだ次の瞬間―――私たちの後ろにあった正面玄関が吹き飛んだ。
今度は何!?
驚く間もなく私たちの周りに黒い障壁が展開される。
フラックスの物と比べ物にならない頑強さで、アネモネから放たれる幾つものツララにびくともしない。
振り返ればそこには破壊された正面玄関と黒づくめの男―――クロッカス・リア・ウィスタリア殿下が立っていた。
ラスボス来た! これで勝てる!