謎が謎を呼ぶ
城を出て貴族街を歩いていく。目指すはクロッカス殿下の別邸だ。
ただ無言で歩いているのも気まずいので、まだ聞いていなかった話題を振ってみる。
「お母様から話を聞くことは出来ないのですか?」
私の言葉にフラックスの歩みが止まる。
「母上は……父上が死んだ後に心が壊れてしまった。まともに話す事も出来ない」
「……すみません」
「いや、いい。……そんな状態の母上と婚約したクロッカス殿下はこちらの財産や領地目当てだったんだろうと思う」
つまりクロッカス殿下との結婚も書類上の物って事か。
捕む手に力が増す。それもあって恨んでるんだろうな。それはわかったから手の力を緩めてほしい。手が痛い。
「ブルーアシード様は今まで本当に良く生きてられましたね。私が殿下の立場だったら財産も領地も奪い返されるの嫌なので始末してると思います」
「……」
フラックスは黙り込む。
自分がそんなに危ない立場だったのをようやく理解したのか。周りに教えてくれる大人もいなかったんだろうけど、貴族ってこういう繊細な立ち回りが大事なんじゃないのか。これから頑張って学んでほしい。
自分の感情に振り回されなきゃ出来そうな感じはするけどね。なんせ攻略対象。有能なのはジェードが証明してくれている。
フラックスが黙っているのをいいことに、私は自分の考えを述べる。
「もしくはおだてるか脅すかして、お飾りの当主になってもらうかですけど、その場合こんなに自由に出歩かせないと思います」
クロッカス殿下のやり方は中途半端な印象を受ける。好きに裏切って寝首を掻いてくれと言わんばかりだ。
それだけフラックスの事を舐めていると言われれば、それまでなんだけれど。
「言われてみれば、外出に制限もかけられていない。交友関係に口を出されたこともない」
「ますますよくわかりませんね。殿下は何を考えておられるのでしょうか」
フラックスは考え込むように黙ってしまった。
謎は深まるばかりだ。
「……ブルーアシード様から見て、クロッカス殿下はどんな方なのですか?」
ふと、気になったことを口にしてみた。
院長は殿下を優しい人だと言った。私も会ってみてそう思った。
けど、フラックスからはどうなのだろうか。
「俺は殿下を憎いと思うし恨んでいるが……。あの方自身から何かされたことはない。むしろ勉学にしろ他の事にしろ、不自由を感じたことがない。そうやって俺に義理や感謝を感じさせようと思えば出来たのに、そんなこともせず俺や母上の事は避けてばかりで……考えてみれば、おかしなことだらけだな」
話が混乱するだけだった。
なんなんだ、クロッカス殿下は。そんなに無能に見えなかったし、側近二人もそれくら進言しそうなのに。
そんな話をしているうちに、クロッカス殿下の別邸は目の前に迫っていた。