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スチル

 フラックスは自分の手で涙を拭うことすらしない。ポロポロと涙が頬をつたっていく。

 そんな顔でも絵になるのは、流石攻略対象だ。むしろスチル絵になりそう。


「お前なんかに言われなくてもわかっている! だが他の貴族からは腫れ者扱い、血族からは憎まれて、誰も俺の話を聞いてくれない...! 殿下も『お前に話すことはない』の一点張りで、どうしようもなかった...! 憎しみだけが募って、自分でもどうしようも出来ないんだ!」


 なんか叫び始めたけど、大丈夫かな。ここ、廊下なんだけど。

 あと、そういう内心の吐露は主人公のアイリスにやってくれ。可哀想だとは思うが、私じゃどうにも出来ないぞ。


「唯一マゼンダ団長は殿下を憎むのを止めて、女王陛下と国の為に尽くせと、それがお前の為でもあると諭してくれるが……それも出来なくて」


 お姉さま……じゃなかったマゼンダ団長、出来た人だな。貴族としてはそれが正しいのだろう。

 ただ、感情なんて自分じゃどうしようもないこともある。思いが大きければ大きいほどコントロール出来ないなんて、大人でもよくあることだ。大事な人を亡くしたなら猶更。


「別に憎んだままでもいいと思いますよ。それだけ大切なお父様だったんでしょう?」


 私の言葉にフラックスは、はっとしたように目を見開く。そして涙を流したまま微笑んだ。


「……ああ。今でも尊敬してる」

「だったらその憎しみを別の所に生かせばいいじゃないですか。女王陛下に取り入って殿下を断罪させるでもいいし、絶対殺す意思があるなら従順な振りで殿下に取り入って信用されたところで刺すでもいい。その熱意があるなら何でも出来ますよ」


 ひょっとしたらフラックスのルートでは、彼は憎しみの為に女王陛下のアイリスを利用しようとしていたのかもしれない。ただ、アイリスと過ごす内に愛が芽生えてクロッカス殿下を倒した後は宰相として国を支える。―――そんな救いの物語。

 そうなると私の助言はフラックスルートの開始イベントだったのだろうか。

 それならそれでもいい。私の見えないところで憎しみを清算してくれ。王都が大変なことになりそうだったら私は逃げるからな。


「そんなこと言われたのは初めてだ。憎しみも、父親を大切に思っているのも肯定されたのは」


 フラックスは泣き笑いの表情だ。でも先ほどまでの険のある表情とは違う、どこか迷いが吹っ切れた顔だ。

 うんうん、これで少しでも立ち直ってくれたのなら良かった。とっととクロッカス殿下の所にでもアイリスの所にでも行ってくれ。


「少しでもお役に立てて良かったです。では……」


 私はこれで、と踵を返そうとしたら腕を捕まれた。


「では、協力してもらうぞ」


 先ほどまでの泣き顔はどこへやら。フラックスはとてもいい笑顔でそう言った。


 なんで???


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