メッセンジャー
そうこうしている内にグレイ隊長の先導で執務室まで辿り着いた。要所要所に騎士やら見張りやらいたが、グレイ隊長のおかげで顔パスで通り過ぎて来てしまった。
親切で親しみやすい人だけど、この人も凄い人なんだよな。
そう思っている間にグレイ隊長が躊躇いなく執務室の扉を叩く。
「俺だ」
「グレイ? どうしました?」
扉を開いて訝し気なアンバーが顔を出す。
「嬢ちゃんがお前に用があるんだって」
「サクラさんが? どうしました?」
親指で私を指示したグレイ隊長につられて、アンバーが私を見る。
絶対嫌味言われそうだけど、ここまで来たら頼むしかない。
「その、院長に渡してほしいものがあるんですけど」
「いいですけど、人を気軽にメッセンジャーにしないでいただけますか? 私も忙しいので」
「……すみません」
若干不機嫌そうなアンバーにとりあえず謝っておく。こっちだって出来れば迷惑かけたくないけど、連絡先も寄越さない院長が悪いと思う。孤児院に送るのは最終手段だ。最悪三か月くらい来ない時があるので。
アンバーは嘆息しつつも腕を差し出してくれたので、そっと小包を手渡した。
「今回は手紙だけじゃないんですね」
重さと小包の大きさから判断したのだろう、アンバーはしげしげと小包を見る。
「今までお世話になったので、お礼の品が入ってます」
「……わざわざ?」
アンバーが珍しく素で驚いた顔をする。
そんなに意外か。
「院長にとっては安物ですし、大したものじゃないんですけど、今まで修行してもらったせめてもの気持ちというか……そういったものです」
「……そうですか。わかりました。必ずお渡しします」
アンバーが一瞬、柔らかい笑みを浮かべた―――気がしたが、瞬きの間にいつものすまし顔に戻ってしまった。
見間違いか……?
首を傾げていると、グレイ隊長が声をかけてきた。
「嬢ちゃん、俺は少し用事があるからここに残ってくぜ。気を付けて帰れよ」
「あ、はい! ありがとうございました、グレイ隊長!」
「嬢ちゃんだけだぜ。特別だ」
グレイ隊長は目を細めて笑うと、片手を振りながら執務室の中に消えて行った。
さらっとそういうこと言えるの凄いな……。
「帰り道で迷わないように。では」
用は済んだとばかりに、にこやかな笑顔のアンバーに扉を閉められ、私は一人で取り残された。
なんでそんなフラグ立てるような言い方するかな。
フラグ通り迷うのも癪なので、うっかり迷わないように道のりを思い出しながら10歩ほど歩いた先。
ばったりフラックスと鉢合わせしてしまった。
しまった、油断した。