懐中時計
さて、せっかく院長に買った懐中時計だけどどうやって渡そう。前回の手紙と違って、ジェードに渡すのは酷だろう。ジェードは院長を怖がってたし。
そうなるとアンバーしか院長に渡せる相手がいない。
でもこんな私用を頼んで引き受けてくれるかなぁ……。
翌日、悩みながらも仕事終わりにアンバーを探すが中々見つからない。お城の中をウロチョロしていたら、グレイ隊長に出くわした。
「嬢ちゃん、どうしたんだ?」
「グレイ隊長! アンバーを探してるんですけど、知りませんか?」
「アンバー? あいつならクロッカス殿下の執務室にいると思うぜ」
グレイ隊長の言葉はある意味、予想通りだった。アンバーはクロッカス殿下の右腕なんだから、殿下の傍にいる確率は高いだろう。
だからといって、執務室にホイホイ訪ねに行くわけにはいかない。だって王族だぞ。しかも国を牛耳る権力者だぞ。そんなところにアンバーが目的とはいえ私用で訪ねられるか。
そういう訳で、執務室以外でアンバーが顔を出しそうな所を見に行っていたのだが、ことごとく空振りに終わった。あの人も忙しい人だしね。
今日は運が悪かったと思おう。アンバーにはまた会う機会はあるだろう。懐中時計なんて腐るものでもないし、急いで渡さなくてもいい。
「それなら別の日にします。急ぎじゃないので……」
「でも用事があるんだろう? 要件はなんだ。伝えといてやるよ」
グレイ隊長が笑顔で申し出てくれる。
ありがたい。グレイ隊長の優しさが身に染みる。私が探すより確実だし、渡すのを断られてアンバーに嫌味言われることもない。
私は包みを見せておずおずと話し出した。
「その、院長に渡したいものがあって……。でも、あくまで私用なので、アンバーに頼むのも気が引けるんですけど……良ければ届けてほしいなって……あ、忙しいなら無理しなくて結構ですって伝えて下さ―――」
「わかった。今すぐ頼みに行こう」
「え!?」
驚く私にグレイ隊長は真面目な顔で頷く。
「後回しにすると絶対に面倒な事になる。確実になる。アンバーも絶対引き受けてくれるさ、大丈夫だ」
「そう……ですか?」
「ああ。そうと決まればさっさと行くぞ」
そう言うと、グレイ隊長は歩き始めてしまった。
慌てて私も後を追う。
「面倒なことになるって、ひょっとして院長ですか?」
「そうだ。嬢ちゃんが絡むと何しでかすかわかんないからな」
「ええ……。じゃあやっぱりこの間言ってた『手段を選ばない馬鹿がいる』って院長の事なんです?」
「そうだけど……。なんだ、あいつ何かやらかしたのか?」
心配そうな顔で私を見るグレイ隊長に、部屋への不法侵入と置き配の件を伝えてみる。
グレイ隊長は若干引いた顔で遠くを見た。
「それは……もし今度会ったら殴って注意しておくから。俺が言っても聞かないだろうけど」
否定もフォローもないところに院長のヤバさを感じる。
懐中時計送るの止めたほうがいいかなぁ……。