フラグ量産中
「そういえばジェード。私ってクロッカス殿下のお気に入りとか言われてる?」
ジェードに宿舎まで送ってもらった別れ際、ふとフラックスの言葉が気になって聞いてみた。
ジェードは苦い顔をして口を開く。
「……貴族は噂話が好きだから、サクラが入った時はあることないこと色々言ってたけど、すぐに飽きて噂は消えたよ」
「ふーん、知らなかった……」
まぁ私はモブだからな。地味で目立たないからすぐに噂も止んだのだろう。職場の人たちもそういう話してなかったし。
一方ジェードは心配そうな顔で私の顔をのぞき込んできた
「サクラ、誰かに言われたの? もし他にも酷いこと言われてるんだったら、僕が不慮の事故を装って……」
「うん、大丈夫。気にしてないし、これからその人に関わる事もないから」
フラックスの件は交通事故みたいなものだ。こちらが気を付けて避ければいい。
それよりもジェードが不穏な事を言おうとしてなかったか? いや、まさかね。
私の言葉に納得していなさそうなジェードが再び口を開く。
「何かあったらすぐに言って。僕は年下だから頼りないかもしれないけど……サクラが傷つくのを見るのは嫌だから。危ないことにはこれ以上、近づかないで」
年下だからと言いながら、まるで小さい子に言い聞かせるように話すジェードに思わず笑ってしまう。
「ありがとう、ジェード。わかってるって」
フラックスの件は理由を知ってどうこう出来る立場でもない。ややこしい人間関係のいざこざは関わらないのに限る。
「……本当にわかってる?」
それでもなおジェードは疑いの目を向けてくる。
なんでだ。
「本当だって。心の底から関わりたくないから」
「……そう。その割には気になって仕方がないって顔してるから」
じっと見つめてくるジェードの目から逃れられない。
確かにわざわざ情報を集めようと思うくらいには気になるといえば気になる。どうしてかはわからないけど。
でもそれ以上に関わりたくないのも本当だ。
だって嫌な予感しかしない。
「気のせいだって! それより今日は私に付きっきりで疲れたでしょ。明日も早いんだから帰ってゆっくり休んで」
「別に疲れてないけど……。サクラ、本当に首突っ込んじゃダメだからね!?」
結局、最後までジェードは納得してくれなかった。
どうしてそんなに信用がないんだろう。