監禁 or ……?
しかし私の拳は軽~く院長に止められた。
院長はまじまじと私の拳を見つめる。
院長に掴まれた右腕は押しても引いてもびくともしない。
元々この世界ではスノウの身体でレベルを上げていたからだ。今の私じゃレベル1以下だ。当てられるわけがない。
院長は私の奮闘と拳を交互に見て、憐憫と同情の眼差しと向けてきた。
「こんなに弱くなっちゃって、可哀想に……。大丈夫、ボクが守ってあげるからね。足の事も心配しないで。ボクがお世話してあげるよ」
「スノウの時から守って貰って感謝してるんですけど……。院長なら私の足、治せますよね。なんで放置しようとしてるんですか」
治せない理由でもあるのだろうか。
異世界の人間には魔法は毒とかあるのかな。
首を傾げていたら、院長は再び微笑みながら私の足に触れた。
「だって足を治したら、サクラはまたどっかに行って怪我しちゃうでしょ。このままならどこにも行けないし、ボクがずっと手元に置いておけるじゃないか」
「人を閉じ込めて飼おうとしないでください」
私の反論にも院長はニコニコしたままだ。
ダメだ、これ。『雪の妖精』と同じ思考回路になってやがる。
私がいなくて寂しかったせいで、ちょっと頭のねじが外れてしまったのだろうか。
困ったな。ここには説得(物理)してくれるグレイと、説教(メンタル維持)してくれるクロッカス殿下がいない。
いつもなら私も殴って院長を正気に戻すのだが、私も今は純粋にレベルが足りない。
仕方がないので、言葉による説得を試みることにした。
「すみません。両親と妹が心配すると思うので、夕飯までにはあっちに帰りたいんですけど」
身内が大好きな院長なら、私の両親や妹の事を出せば帰してくれるだろう。
そう思ったのだが、院長は笑顔のまま身を寄せてきた。背中に回ったままの院長の腕がに力が籠る。レベル差がありすぎてそれだけで痛い。
「サクラ……。向こうの世界はこっちの魔法が届きにくいんだ。ボクが足を治しても、あっちに帰ったら元通りだよ? 歩けないのは大変だよね? ね、ずっとこっちにいよう?」
院長は口元は笑みを湛えているのに、目が笑ってない。
変なヤンデレスイッチが入っちゃったな……。
しかし監禁エンドはノーサンキューである。
院長は数日で満足して飽きるだろうけど。
その期間、元の世界の家族に心配をかけるわけにはいかない。
やはり言葉ではダメだ。力……! 説得には力が必要……!
判断したなら即行動。
右手は院長に掴まれたままなので、左手で拳を作って院長に向けた。
するとシャラ~ンとキラッキラなエフェクトと共に左手に出現した白い杖が、院長の頭を直撃した。
院長は直撃した勢いのまま、壁まで吹っ飛んで行った。
え? なんでこれが出てくるの?
困惑して左手の杖を眺めていると、頭に声が響いてきた。
『いい加減にしろ!』
『また女の子を閉じ込めようとするな!』
『本当に妖精ってろくでもないな!』
「はぁ!? ボクは妖精じゃないんだけど!?」
院長の怒鳴り声に、慌てて院長が吹っ飛んで行った壁際に視線を移すと、何故か院長が触手と言い争いを繰り広げていた。
肉塊から伸びていた触手が、何故か異空間から出現して院長を捕まえようとしている。
なんで? 肉塊になってた皆はウィスタリアと一緒に成仏したのでは?
さらに困惑していたら、白い杖から声が響いてきた。
『俺達、桜に助けてもらったお礼がしたいってウィスタリアにお願いしたんだ。それで桜の守護霊にしてもらったんだよ。桜の魂にはその杖が登録されてるから、ちょうど良かったしね! 向こうの世界でも一緒だったんだよ!』
え。この白い杖、魂で強制的に持ち主が登録されてるの?
やっぱり呪いのアイテムじゃん。
肉塊の皆が守ってくれるのはありがたいけど、私の後ろにはあの巨大な肉塊が鎮座してるってことなんだろうか。
そういうのが見えなくて良かった。
「そ、そう……なんだ。ありがとう……?」
とりあえじ肉塊の皆にお礼を言っておくけど、壁際では院長と肉塊の触手のバトルが繰り広げされている。
普通に壁にひびが入って行ってるので止めて欲しい。崩れるんじゃないか? ここ。
不安になってきた所で、更なる乱入者が現れた。
『儂の息子を虐めるなー!』
急角度で触手に向かって飛んでいったのは『真実の水鏡』である。
いや、この声は『雪の妖精』だ。
『真実の水鏡』に吸い込まれたままだからって、鏡ごと移動するんじゃないよ。
「誰が息子だよ!」
『雪の妖精だー!』
『殺せー!』
事態は収まるどころかヒートアップしている。
あー、もうめちゃくちゃだよ。
しかし私には止める手立てがない。
このまま流れ弾が当たって死ぬのかな……。
途方に暮れていたら、颯爽と誰かが部屋に入ってきた。
その人物は争いなど目もくれず、私の元に歩いてきて、すっと膝をついて私の手を取った。
「お姉さま。お迎えに上がりました。大丈夫です。私がお姉さまをお守りいたしますわ」
「スノウ……!」
ヤダ、イケメン……!
可愛くてカッコ良い幼女って最強では……?
なんだか凛々しく綺麗になった気がするスノウにときめきを隠せないでいると、向こうの乱闘から院長の声が響いた。
「スノウ! 抜け駆けしないでよ!」
「アンバーはそこで遊んでてください。さ、お姉さま。行きましょう。お父様もグレイも待っていましてよ」
「うん!」
私が頷くと、スノウはふっと笑って私をお姫様抱っこした。
院長が後ろで騒いでいるけど、気にしない。多分、『雪の妖精』たちと言い争ってるんだろう。
スノウと私は颯爽とその部屋を後にした。
なんか―――死亡フラグは回避したけど、変なフラグが立ったままな気がする。
まぁ良いか!
Ture End
Thank you for playing
皆さんが読んでいただいたおかげで、ここまで書くことが出来ました。
誠にありがとうございます。
各キャラの後日談を書くかもしれませんが、これにて桜の物語は終了です。
よろしければ感想・評価等よろしくお願いします。




