努力
センチメンタルに浸っていられたのは、目が覚めた日だけだった。
次の日から地獄のリハビリが始まったので、それどころじゃなくなった。
そりゃ二ヶ月も寝てたら筋力が落ちるよね……。
腕は筋力が落ちているだけ、声が出なかったのも二か月以上も喋ってなかったせいで、慣れたら普通に喋れるようにはなった。
ただ、足はどうしようもない。
バッキバキに骨が折れたんだろうな……という手術痕と、思うように動かない足が事故の激しさを物語っている。
これは葵が『虹の女神』にお願いしてなければ死んでたな。生きてるだけ感謝しよう。
兎にも角にもリハビリが必要だ。
それで元通りに足が動くようになるかはわからない、とはお医者さんにも言われた。
でも家族も支えてくれるし、叔父さんたちもちょくちょくお見舞いにきて励ましてくれたし、私は私の出来る事をやるしかない。
向こうの世界でも、私だけ属性魔法が使えなかったけど、腐らずに訓練してたおかげで生き残れたわけだし。
努力してもどうにもならない事はあるけど、努力した時間や経験は無駄になるわけじゃない。
向こうの世界の経験があるから、今も自暴自棄にならずにいられる。
そう思うと、やっぱり院長に逢いたいなぁ。色々教えてくれたのに、何のお礼も出来なかった。
リハビリ以外は基本的に入院中は暇なので、つい向こうの世界の事を考えてしまう。
考えても私にはどうしようもできないんだけど。
しかし私のスマホも事故で壊れてしまったので、暇だと完全に手持ち無沙汰になって、向こうの世界の皆の事を考えてしまう。
考えていてもモブの私を『虹の女神』が助けてくれるわけでもない。
仕方がないので、葵に私のゲーム機を持ってきてもらった。ただの暇潰しだけど、ウジウジ考えるよりは気分がマシになるだろう。
仕事をし始めてから全く起動してなかった。久しぶりに遊ぶなぁ。
そんな事を思いながら電源ボタンを押す。
……点かない。
何度電源ボタンを押しても、画面は暗いままだ。
一年くらい遊んでなかったから、壊れちゃったかな?
ため息をつきながら暗い画面を見つめていると、突如真っ暗な画面に金色の瞳が映り込んだ。
カッと目を見開いた眼差しが、私を捉える。
『ミ ツ ケ タ』
耳に響く声と共に、こちらに向けて手が伸びてくる。ゲームの液晶画面にバチバチと暗い火花が踊った。
やがて画面の中心からぬっと白い腕が飛び出してきて、私の腕を掴まえた。
普通、恐怖するところだが、生憎私はこういう事をする人に覚えがある。とっても。
私は特に抵抗せずに、彼の腕を掴んでゲームの液晶画面にダイブした。




