お出かけ
服を買いに行く服がない問題も解決して、ジェードとお出かけする約束の日が来た。
宿舎の前で待っていてくれたジェードと一緒に中心街に向かう。
「サクラ、今日の服は春に咲くお花みたいに可愛いね。よく似合ってるよ。サクラは服に負けないくらい可愛いけど」
「ジェードの方が可愛いよ。安心して」
事実である。ジェードの可愛さの前では私は霞んで見える。流石、攻略対象。今日はいつもの執事服ではなく、深緑色のジャケットに白いシャツにグレーのボトムといった出で立ちだ。何を着ても可愛い。
「またそんなこと言って……じゃあ行こうか」
そう言ってジェードがエスコートしてくれる。どこか嬉しそうなジェードの腕に、自分の手を預けながらジェードを見やる。
うーん、可愛い。天使かな?
『王の影』所属とはいえ、女王陛下付きの執事で将来有望。身内の贔屓目に見ても天使みたいに可愛いが、2・3年後には人目を惹く美男子になるだろう。絶対にモテる。私で存分に練習して将来の彼女さんとのデートに生かしてほしい。
王都の中心街は主に商店で構成されている。人通りも多い。モブ君みたいな黒服の兵士さんたちが頻繁に巡回していることもあり、治安はいい。
白い服の騎士―――近衛騎士団の騎士はそういう巡回を見たことがない。庶民派のグレイ隊長と貴族派の近衛騎士団で、そういうところにも意識の違いとかあるんだろうな。
必要な物だけしか買っていないので、ちゃんとお店を見て回るのは今回が初めてかも。しっかり働いてお給料も入った記念でもある。
「とりあえず見て回ろうか。欲しいものがあるなら言って。売ってるお店に案内するから」
「ありがとう、ジェード」
ということで、適当にお店を冷かしつつ歩くことになった。
日常に必要な物は宿舎に揃えられていたため、今まで生活に困ることはなかった。なので今回はどんなお店があるのか見ながら、欲しい物があったらお値段と相談して買うくらいの軽い気持ちだ。
ジェードは急ぐでもなく、私の歩調に合わせてゆっくり歩いてくれる。
そうして、とある雑貨屋の中を見て回っている時にふとあるものが目に留まった。
金の蓋に雪の模様が描かれた懐中時計。
なんとなく院長みたいだと思った。そういえば前世でも初めて給料が入った時には両親に何か渡した気がする。何を渡したか、もう思い出せないけど。
あの人は親じゃないけど魔法の先生だ。今まで教えて貰ってばかりで何も返せていない。
そういうことで、ちょっと値段は張るけど懐中時計を買うことにした。服のお礼もある。院長の言じゃないけど気に入らなかったら売るなり焼くなり好きにしてほしい。
ジェードが他の物を買っている間に隠すようにして買う。ジェードの事情を聞いていると、話すのは後ろめたい。
こんな気持ちになるから、さっさと会って話し合いたかったのになぁ。
「サクラ、何か買ったの? 僕と一緒に買えばそれくらい出してあげたのに」
「そんな訳にはいかないよ。私の買い物なんだから」
絶対に給料はジェードの方が上だろうけど、年下で幼馴染の弟みたいな子にお金出させるほど困窮してない。後、ジェードはこの懐中時計を見たら誰を想像して買ったのかわかってしまうだろう。
ジェードは不満そうだったけど、無視して雑貨屋を出る。
まだまだ時間はある。次はどこへ行こうかな。