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二つの世界

 スノウは私の生まれ変わり。

 心に傷を負ったスノウの代わりに、あの世界で過ごして欲しい―――


 それが『雪の妖精』が最初に言っていた事だった。

 その前提条件から違っていた……?

 呆然としている私に、葵が同情したような顔で説明をしてくれた。


「『虹の女神』さまは、お姉ちゃんの魂が事故で偶然異世界に飛ばされちゃって、それを『雪の妖精』が捕まえて利用してたって言ってたよ。下手に『雪の妖精』を刺激したくなかったみたいで、私もこっちに帰ってくるときに言われたんだよ」


 という事は―――あの妖精、最初から騙してやがったな!?


 通りで『雪の妖精』が第一印象で信用できないと思ったわけだ。騙す気満々の説明してる詐欺野郎を、ちゃんと見抜いていただけだったんだ。

 ただその後に『雪の妖精』と会う時はスノウの身体か、スノウと一緒だったからわからなかった。『雪の妖精』は身内に甘いから、スノウがいるなら彼は優しい好々爺でしかない。

 勿論、私の魂をスノウの身体に突っ込んだのも、スノウを守るためだ。『雪の妖精』は身内を守るためなら、他人―――しかも人間なんて利用するのに何の良心の呵責もなかっただろう。人間を見下して、肉塊に加工できる妖精だ。

 実際に私とスノウは分離して存在出来ている。魂が同じじゃないから。


 結局あの世界で私が苦労したのは、全部『雪の妖精』のせいじゃない!


 怒りに任せて『雪の妖精』をぶん殴りたくなったが、残念ながら彼は異世界にいる。

 怒りに震えるしかない私を、葵は慌てて宥めてきた。


「ま、まぁでも終わった事だから。もう『雪の妖精』にもゲームにも、振り回されなくて良くなるよ!」

「そうだね……」


 確かにこっちの世界には妖精もいないし、魔法もない。

 私の魂も偶然向こうの世界に飛んで行ってしまっただけで、向こうの世界から干渉するなんて不可能に近いだろう。


 そう思うと、少し寂しくなった。


 本当はお別れなんてしたくなかった。

 もっと一緒にいたかった。

 こっちの世界も大事な人たちがいるけど、あっちの世界も大事な人がいる。

 スノウは泣いてないだろうか。院長は自棄になって暴れたりしてないかな。殿下とグレイは心配してくれているだろう。

 ジェードにも心配をかけたままだし、フラックスには『水鏡』を貸してくれたお礼も言えていない。フォーサイシアとネイビーも、アメトリンから帰ってきてたのに会わずじまいだった。

 皆に何も言えなかったなぁ。

 元の世界に帰ってこれたのも、両親や葵に逢えたのも嬉しい。

 でも向こうの世界の人々も恋しい。

 ―――どっちかなんて、選べない。でもどっちもなんて、私の我儘なんだろう。

 黙り込んでしまった私に、葵も声をかけられないでいる。

 葵も私の感情を指輪で感じ取ったんだろう。

 もしくは葵も同じなのかもしれない。葵だって、向こうの世界で色々な思い出があるはずだ。

 黙り込んでしまった私達に、廊下からタイミングよくお母さんの声が響く。


「葵、そろそろ面会時間が終わりよ。話は終わった?」


 心配そうなお母さんの声に、私は葵に目を向けた。


「ちょっとセンチメンタルになっちゃったね。目覚めたばっかだからかな。また話そうよ、葵」

「うん……。お姉ちゃん、大丈夫?」


 心配そうな葵に、私は笑顔を作った。


「私は大丈夫だから、葵は早く帰んな。お父さんとお母さんが待ってるよ」


 まぁ、笑顔を作ったところで葵の指輪で私の内心は見透かされてそうだけど。

 葵は心残りな顔で何度も振り返りながらも、病室を後にした。

 葵も両親も部屋からいなくなって、私の病室にはただモニターの音だけが静かに響いている。

 外もすでに暗くなって、窓が明るい室内を反射している。


 一瞬、窓に映った金色の目と目が合った気がした。


 しかしよく見れば、私が窓に写っているだけだ。

 室内の照明が反射して、金色に見えただけだろう。


 センチメンタルになってるせいかな。どうしても院長を思い出してしまった。


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