指輪の効力
葵に聞きたいことは山ほどあったけど、両親がいる手前、異世界の事なんて尋ねることは出来ない。私も上手く喋れないので、もどかしい思いをしながらも両親の話を聞くしかなかった。
私が事故で生きていたのも奇跡的な事で、目が覚めないかもしれないと医師から言われていた事。
生きていてくれて嬉しい、今はゆっくり休んで欲しい。涙ながらに何回も両親にそう言われて、私も泣きそうになった。
ああ、生きてて良かった。
ただ両親が話している間、葵が凄く申し訳なさそうな顔で一言も喋らないのが印象的だった。
事故の時、葵を庇って私が大怪我をしたから……と言えばそれまでなのだが、なんとなく違う気がする。
私が葵にチラチラと目線を送っていたので両親も気づいていたはずだが、二人とも何も言わない。
そうこうしている内に、お父さんが立ち上がった。
「あまり桜の負担になったらいけないから、今日は帰るよ。またすぐに来るからな」
「桜は心配しなくても良いから、ちゃんと休んでね」
お母さんもお父さんに続いて立ち上がる。
そこでようやく、沈んだ表情の葵が口を開いた。
「お父さんとお母さんは先に行ってて。私はお姉ちゃんと話があるから」
両親は顔を見合わせると、心配そうに葵を見つめた。
「葵、お前のせいじゃないんだぞ」
「あの事故は車を運転してた人が、心臓発作を起こして意識を失くしたからよ。二人とも悪くないの」
二人の言葉に、葵は無理矢理笑みを作った。
「大丈夫。わかってるから。ね、お願い。お姉ちゃんと二人きりで話がしたいの」
葵のお願いに、両親は困ったように顔を見合わせた。
私も喋れないが『お願い!』という念を込めて二人を見つめる。
私の念が通じたのか、最終的にはお父さんが心配しながら頷いてくれた。
「あまり長話はダメだぞ」
「廊下で待ってるからね」
両親はそう言い残して病室から出て行った。
残った葵はずいっと私の耳元に近寄ってきた。
「お姉ちゃん。『恋革』の事……覚えてる?」
病院という事もあるが、扉の向こうで両親が待っているからか、葵はヒソヒソ声で尋ねてきた。
一見『恋革』のゲームの話に思えるけど、これは違う。あの世界の話の事だ。
私が勢いよく頷くと、葵は安心したように自分のカバンから何かを取り出した。
指輪だ。
光に当たって七色に輝く指輪。葵が持っていた、あの世界でワープが出来る指輪だ。
「これでお姉ちゃんと話が出来ると思う。お姉ちゃん、頭で何か考えてみて」
人差し指に指輪をはめた葵が、真剣な表情で私の手に自分の手を重ねる。
何から話せばいいのか。
改めて考えるとこんがらがりそうなので、一先ず指輪の事を聞いてみる。
『そんなチートアイテム、持ってきちゃったの?』
「『虹の女神』さまが回収し忘れちゃったみたい。でも、現実だと触った人の考えがわかるくらいだよ」
ふふ、と笑う葵に呆れ半分、感心半分で思わず笑ってしまう。
きっと私に使う前に、誰かで指輪の効力を試したんだろう。両親か叔父さんたちかな。
でもちゃんと葵と会話出来てる。
十分現実でもチートだよ。




