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ハッピーエンド

「よくわからないけど、治りましたよ! もう消えてないです!」


 私が歓喜の声を上げると、院長は驚いて自分の左手を見つめた。


「ほんとだ……なんで……?」


 呆然と呟く院長にどこからか声が響いてきた。


『儂の魂が離れたからな。別人判定になって、肉体の消失がリセットされたんじゃ』


 『雪の妖精』の声だ。

 声は『水鏡』から響いてくる。


『儂もダイヤを……いや、アンバーを死なせるのは嫌じゃったからな。助かったぞ、サクラ』


 慌てて声のする『水鏡』を覗き込んでも、『雪の妖精』が映り込んだりはしていない。いつもの『水鏡』だ。

 院長が声のする『水鏡』を見やって呟く。


「さっきの『水鏡』の吸引で、『雪の妖精』の魂だけ『水鏡』に吸収されたみたい」

「そうか。それならアンバーは消えずに済むんだな。良かった……本当に良かった」


 クロッカス殿下が涙を浮かべて院長の肩を叩く。

 途端に我に返った院長が、わなわなと震えながら自分の両手で顔を覆った。


「待って……。もう最期だと思って、凄く恥ずかしい事言った気がする……」


 アニメの最終回くらいの盛り上がりだったからね。

 急に冷静になって恥ずかしくなったんだろう。

 そしてこんな場面で空気を読まないのは殿下である。ひと際明るい顔で院長に声をかけた。


「お前、オレの事嫌ってなかったんだな!」

「違いますよ! 勘違いしないでください! 貴方の事なんて嫌いなんですからね!」


 院長が殿下に食って掛かってるけど、無理があるよ。

 殿下もキャンキャン吠えるポメラニアンを見つめる顔で院長の事見てるし。


「そんな微笑ましそうな顔でボクを見るなぁ! ボクが一番大事なのはサクラなんですからね!」

「わかってる、わかってる」


 癇癪を起す院長の頭を、クロッカス殿下がポンポン叩いて宥めている。


 自分の命より大事な殿下、よりも私が大事……?

 どんだけ親バカなんだよ、院長。


 グレイと二人で呆れて院長と殿下のやり取りを眺めていたら、急に院長がばっとグレイを見た。


「グレイもボクの事、友達だって言ってくれたよね!」

「言ってねーよ」

「え、でもボクの事好きだって……」

「勝手に記憶を捏造するな」


 しょんぼりする院長と、冷めた目のまま腕を組んで見下ろしているグレイ。

 いつものやり取りで安心する。

 院長とグレイを眺めていたら、クロッカス殿下が声をかけてきた。


「ありがとう、サクラ。お前の機転のおかげだ」


 本当に嬉しそうな顔だ。自分が助かった時よりも嬉しそうな顔をしている。

 この人は弟二人が本当に大事なんだな。

 続けてグレイが声をかけてくる。


「突然変な事しでかすから、何かと思ったぜ。まぁ、でも……ありがとな。誰も無くさずに済んだのは、嬢ちゃんのおかげだ」


 グレイは少し照れくさそうに首元を掻いて、目線を地面に落としている。

 グレイも兄のクロッカス殿下だけじゃなくて、幼馴染の院長の事も本当は嫌ってないんだろう。

 最後に院長が私を抱きしめてきた。


「ありがとう、サクラ。ボクも本当は死にたくなんてなかったからさ。サクラにはボクが出来る事、なんでもしてあげるよ!」

「死にたくないなら、あんな無茶しないで下さい」


 満面の笑みの院長の頬を軽く抓る。

 それでも院長は笑顔を崩さない。


 ウィスタリアも救われたし、『雪の妖精』も魂も意識も『水鏡』に残ってるし、院長も死んでない。


 これはハッピーエンドと呼んでも良いんじゃないかな。

 DLCも終わりだろう。これでゲームによる問題に振り回されなくて済む。

 三人の笑顔を見てホッと一息ついたところで、脳内に声が響いた。


『お疲れさまでした。では、元の世界に還してさしあげますね』


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